6月、イラン核施設に対して、破壊力が極めて大きいバンカーバスターなどによる米軍の精密打撃が行われた。再選を実現させたトランプ大統領の票田は海外への紛争に米国が関与することに批判的であったはずで、その意味ではトランプ政権は政治的アイデンティティーを見失ったともいえる。それはトランプ大統領といえども、問題の解決に軍事力が有用だという「軍事主義」の考えに魅せられてしまうことを見せつけた。
軍事主義がトランプ大統領の直感的なリーダーシップと交わることは、極めて危険だ。世界の紛争に「ピースメーカー」として関与しようと試みる姿勢ですら、当事国に外交的混乱をもたらす懸念が指摘されてきた。それに加えて、軍事力や経済力を駆使して威圧し、時に行使するような行動が加われば、事態の収拾は一層困難になりかねない。
たとえば、対ロ交渉が行き詰まる中でウクライナへの武器提供を通じて揺さぶりをかけている。対ロ交渉に希望が持てなくなれば、トランプ大統領はどのような行動に出るのか。北朝鮮と再び交渉を行う意欲を感じさせるが、ロシアの後ろ盾を得た北朝鮮の強気な姿勢の前に前進がみられなければ、一体どうするのか。そうしたエスカレーションを否定できないところに恐ろしさがある。
他方で、米国は「劇場」のような関税政策で関係国を日々翻弄している。ブラジルに50%、欧州連合(EU)に30%といった予想外の数値を設定し、あらゆる手段を道具として使って揺さぶりをかけようとした。
日本は、エプスタイン問題によるトランプ政権の国内的苦境や、EUなどとの取引の前というタイミングや、巨額の投資パッケージの約束をきることで、合意文書のない形ではあるが合意にはたどり着いた。それでも、トランプ政権のこれまでの経緯を踏まえれば、日米合意の持続性には不安が残り、貿易問題を安全保障などとリンクさせないという姿勢も本当に持つのかも懸念だ。
同盟国の軍事予算に対する圧力は極めて強くなっている。実は米国自身はインフレ率を差し引くと国防予算が下落する見込みだ。同盟国には3%、3.5%と国内総生産(GDP)比での拠出を強く求めていることと対照的である。
米国は世界に対する過去の防衛関与を「米国に対する搾取」であったと方向づけて、同盟国への応分負担の圧力を強めている。しかし、同盟国側としても米国との取引における利益点を見出せなくなりつつある。米国自身の軍事力は現状維持が精一杯である一方、他国への圧力行使は従来の水準を大幅に超えている。
