2025年12月5日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年9月12日

「70歳でもまだまだ小僧」

 まず習近平氏は、

 「以前は70歳まで生きる人間は珍しかったが、最近では70歳でもまだまだ小僧っ子だ」

 と発言したようだ。これに対し、プーチン氏が身振りを交えて返答した内容としては、

 「バイオテクノロジーの発達で、臓器移植を継続して受けることが可能になる。そうすれば、若返りを繰り返して生き続け、不死を得ることもできるだろう」

 と語ったようだ。この時点では、金正恩氏に向けて習・プーチン両首脳の会話が朝鮮語に通訳されており、金氏が興味津々という顔で聞いている。さらに習氏は、

 「今世紀中には、150歳まで生きられる可能性があるという予測もある」

 と述べており、ここでカメラが切り替えられると動画はそこまでとなっている。

 もちろん、ロイターの主張が100%正しいという断定はできない。けれども、表面的には無内容な雑談に聞こえるこの「切り取り動画」が「削除要求」から、「使用不許可」になったことから逆算すると、政治的な意味合いを推察することはできてしまう。ここでは、そうした推察の作業をしてみたい。

〝後継者問題〟で腹の探り合い

 まず、習近平氏の「今では70歳でも若い」という内容の発言だが、表面的にはお互いに70代になっているプーチン氏に対して、あなたも「まだまだ若い」と持ち上げつつ、「自分も若い」と胸を張っているように聞こえる。また、横にいた北朝鮮の金正恩総書記が、自分たちよりはるかに若いにもかかわらず、後継者含みで長女を帯同してきた中で、その若い父娘に対する対抗心もあったのかもしれない。

 けれども、国家の最高指導者ということ、そして、どちらも事実上は後継者指名も、明確な任期の終わりもない中では意味合いは俄然「キナ臭く」なってくる。どういうことかというと、習氏としたら、プーチン氏に対して「どうでしょう? お辞めになる意志はあるんですか? 後継者はいるんですか?」というような含意で、相手の出方を見極めようとしたということは、否定はできない。このレベルとなると、雑談もかなり真剣勝負になっているはずだ。

 これに対してプーチン氏は内心困ったであろう。後継者を決められず、引退したくてもできないということは、自分も習氏も同じである。一方で、一緒に話を聞いている金氏は、こともあろうに若い長女を後継者含みで同行させている。そんな中で、少しでも「自分の引退」を匂わすようなセリフを言えば、戦時の指導者としても隙を見せることになる。

 となると、発言の方向は「永遠に引退しない」ということ、つまりは「不老不死」ということになり、習氏に対して「お互いに辞められないし、死ねない」という「同類」であることを、確認しようとしたのだろう。そこで、習氏がもしも真剣に乗ってこなければ「後継者がいる」かもしれないし「中国共産党の高級幹部子弟である太子党などの自陣営だけでなく、共産主義青年団(共青団)の人材も含めて幅広く後継者候補を考えている」とか、「その場合は西側との関係改善もある」という兆候として警戒すべき、そこまで計算していたことも十分にありうる。


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