中国の首都北京の天安門で行われた「抗日戦争勝利80周年記念式典」では、中国・ロシア・北朝鮮の三首脳が集まったとして話題になった。この式典については、一点留意しておきたい。それは、1972年の日中国交正常化において、当時の周恩来首相が日本の田中角栄首相に対して「日本軍国主義は日中共通の敵」だが、「日本人民は中国の敵ではない」とした基本合意からの逸脱が見られることだ。
この「周恩来ドクトリン」は、中国として戦後の平和的な日本国民は一切敵視しないという誓いであり、中国側はその証として戦後補償を放棄した。日本側はこれに感謝する形でその後、中国が産業国に発展するための膨大な技術供与と、巨額の支援を行っている。
にもかかわらず、戦争とは無関係の現在の世代間においても、日中がナショナリズムの角を突き合う状況がある。今回の「記念式典」というのは周ドクトリンからの逸脱であり、日中関係の当事者としては猛省と軌道修正が必要であろう。
ところで、式典におけるスピーチや軍事パレードに先立って、中国・ロシア・北朝鮮の三首脳が天安門の楼閣に登壇したが、その際の首脳間の私的な会話が中央電視台のライブ中継のマイクに偶然捉えられていた。これを、一部の視聴者が気づいてその映像と音声をソーシャルメディアに流した。
これが興味深い内容であったために、ロイター通信が4分ほどの内容に編集して全世界に配信した。だが、その後、中国当局は「編集によって事実が歪曲された」としてロイターに映像の削除を要求した。
要求だけでなく、使用許可も取り消されたため、ロイターはこれに応じて契約社にも削除を求めている。だが、全世界の千社を超える報道機関がすでに配信した後であり、いわゆる魚拓が無数に広がっている状況に変わりはない。ちなみに、ロイターとしては編集して配信した内容では「事実を曲げていない」というコメントを出している。
では、その問題の会話にはどんな意味合いがあるのだろうか。内容の解釈と、削除要求が出たということの意味を考えてみたい。
内容については、動画の音声の中にある首脳たちの肉声と、それぞれの通訳の内容を総合している。とりあえず、ロイターの見解に沿ってみたということでご理解いただきたい。
