2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月25日

 (イスラエルとの国交正常化に関する)トランプ政権のサウジに対する要請は、今のところ効を奏していない。そして、サウジアラビアの事実上の支配者であるモハメッド・サウジ皇太子は、イスラエルのハマスに対するガザの戦争をジェノサイドと批判している。

 アブラハム合意を交渉した際のUAE側の最も重要な要求は、ネタニヤフ・イスラエル首相が、西岸を併合するという脅かしを撤回することだった。しかし、イスラエル政府関係者が幾つかの欧州諸国のパレスチナ国家の承認に対して、また、併合を持ち出したのである。

 パレスチナ人は、西岸を将来の独立国家の中核部分と見なしているが、1967年以来、イスラエルが軍事占領している。しかし、2022年にネタニヤフ首相が極右派の入植者による2つの極右政党を含む連立内閣の首相に返り咲いてから、イスラエルは占領地に対する支配を強化し、大規模な入植地の建設を許可している。

 しかし、このような入植地は、国際法上違法である。8月、イスラエル政府は、エルサレム近傍のE1と呼ばれる問題のある入植地計画を進展させた。この入植地は、西岸を二つの地区に分離してしまい、統一されたパレスチナ国家を建設するという期待に対する死刑宣告だと広く見なされている。

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UAEが本当に懸念していること

 ガザでのハマスとの衝突は22カ月も続いている。ネタニヤフ首相はガザの占領を打ち出したが、軍参謀総長が反対し、予備役の兵役拒否が続出する等、力による強引な解決ですら先行きは見通せない。

 その一方で英、仏、カナダ等の主要西側諸国がパレスチナ独立国家の承認に動き出している中、今回、極右のスモトリッチ財務大臣がパレスチナ独立国家承認への対抗措置として西岸併合を打ち出した。

 その最中にUAEの外務副大臣が、西岸併合は同国とイスラエルの国交正常化を定めたアブラハム合意の精神に違反すると発言したことは、これまでガザのアラブの同胞に対する虐殺に対してほとんど何も行動を起こさなかったUAEのみならずアラブ諸国からの強いイスラエル批判として注目されている。

 しかし、これも口先介入の域を出ないように思われる。というのは、発言のレベルが外務副大臣に過ぎず、外務大臣を含めたUAEの政策決定権を握る王族からの発言ではないからだ。

 UAEはナヒヤーン首長家による専制独裁国家だが、その正統性には疑義があり、レンティア国家(国民にお金をばらまくことで国民の支持をつなぎ止めている国家)として国民の意向を気にしなければならない。首長家はイスラエルとの国交正常化を押し切ったが、国民の間では根強い反イスラエル感情が強いと思われ、ガス抜きを図ったのではないか。


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