フィナンシャル・タイムズ紙のキム・ガッタス客員論説員が、8月21日付け同紙掲載の論説‘Hizbollah is not the IRA’において、レバノンのヒズボラはイスラエルの攻撃で大きなダメージを受け、その後ろ盾のイランも弱体化しているので米国等は武装解除が可能だと考えているフシがあるが、ヒズボラは武装解除を拒否しており、さらにヒズボラに対するイランの影響力も強まっているとして、楽観論を戒めている。要旨は次の通り。
レバノンをめぐる状況は危険をはらんでおり、イランと米国、さらにイスラエルとの間の綱引きとなっている。
昨年、イスラエルがヒズボラ指導者のナスラッラー師を殺害し、6月の12日間でイランをひざまずかせた後に米国やイスラエル他で蔓延している幸福感は時期尚早だ。間もなくレバノンがアブラハム合意(イスラエルと複数のアラブ諸国との間の関係正常化)に参加したり、サウジアラビアがイスラエルと関係正常化したりするという見方は、中東のプレイヤーと地域の特徴への理解の貧弱さを示している。
現在のサウジアラビアの大きな懸念はイスラエルの好戦的な姿勢やガザで増え続ける死者である。確かに中東地域では大きな変化があった。ヒズボラは軍事的に大きく弱体化し、レバノン国内で政治的に孤立した。
さらに、シリアのアサド政権が崩壊したためにイランからの補給が途絶えてしまった。8月初めに史上初めてレバノンの内閣はヒズボラの武装解除を決定し、レバノン国軍に武装解除を実行する様命令した。これらの決定は国連決議に沿ったものである。
イラン側もイスラエルの攻撃に屈服している。制空権は奪われ、多数の高官が殺害され、治安機構はイスラエルに浸透されてしまい体制内には猜疑心が高まっている。
それでも、イランの指導部に体制の崩壊やクーデターに至る分裂の大きな兆しはない。そして、イスラム革命体制の究極の目的は、革命体制の護持であり、イスラエルとの再衝突が予想される中で弱体化したとはいえヒズボラは、イランの防衛網の重要な要素である。
ヒズボラが降伏し武装解除すると期待する人は、全く勘違いしている。ヒズボラは、占領者に対してローカルな抵抗運動を行ったIRA(アイルランド共和軍)とは違う。
