2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月12日

 現在、イスラエルとイランは停戦している。しかし、ガッタスも書いている通り、イランのイスラム革命体制はダメージを受けたが、体制の崩壊の兆しは見られない。

 イスラム革命体制を存立の脅威と信じるイスラエルがイランを攻撃するのは時間の問題だろう。その時、イラン側は弱体化したとは言え、ヒズボラにイスラエルを牽制させようとするのは間違いない。従って現状でヒズボラが武装解除するなどということはあり得ない。

ヒズボラの抵抗はなくならない

 他方、ガッタスは、ヒズボラが握っているレバノンのシーア派に対する公共サービスを取り返すことの重要性を説いているのは、ヒズボラの存立基盤であるシーア派の離反を招いてヒズボラを弱体化させるという意味で正論だが、容易ではないだろう。レバノンのシーア派は、歴史的に2級市民扱いされ、満足な行政サービスも受けられずに疎外されてきた。

 ヒズボラが「国の中の国」を作るに至ったのは、長年の宗派差別に対するシーア派住民の反発が大きい。今更、政府が「落ち目のヒズボラを捨てて、政府に従え」と言っても、シーア派は簡単にはなびかないだろう。

 そもそも、レバノン領内からイスラエルにテロを仕掛けるPLO(パレスチナ解放機構)を掃討する目的でイスラエルが度々レバノンに侵攻し、その巻き添えとなったシーア派から自然発生的に対イスラエル抵抗運動が生まれたのがヒズボラのルーツだ。従って、ヒズボラにはイスラエルを攻撃する理由がある。

 他方、その頃、イランは、イラン型イスラム革命のイデオロギーの正統性、普遍性を証明するために革命の輸出に躍起になっていたが、世界中でそれを唯一受け入れたのがヒズボラだった。イランにとりヒズボラは、イラン型イスラム革命のイデオロギーはイランだけの特異なものでないという証明であり、その存続はイランにとって極めて重要な問題だ。

 こうした理由から、ヒズボラがイスラエルに対する抵抗運動を諦める可能性は低く、イランもイスラム革命の正統性の見地からあらゆる手段でヒズボラを支援し続けるだろう。

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