2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月12日

 つまり、レバノンには政治的な譲歩と引き換えに戦闘を止めるという「聖金曜日の合意」(IRAと英政府との和平合意)のようなものはない。ヒズボラの多くの指導者が殺害された結果、ヒズボラは再びイランの厳格なコントロール下に置かれ、イランがイスラエルと安全保障について合意に達するまでヒズボラは武装解除についてレバノン政府と合意することは出来ない。

 他方、レバノン国軍は、昨年11月の停戦合意に従って着々とヒズボラの重火器の押収とリタニ川以南のヒズボラの拠点の除去を進めている。米国は、レバノン国軍がヒズボラに圧力を加え、南ベイルートのヒズボラの根拠地まで進軍することを期待しているが、より賢明な方法は、レバノン政府がヒズボラに対して財政面と司法面での圧力を加え、ヒズボラが立ち回る空間を減らす事だ。

 より重要なことは、ヒズボラが握っているレバノンのシーア派に対する公共サービスを取り返すことである。余りにも長い期間、ヒズボラは、シーア派コミュニティに対してヒズボラだけが公共サービスを提供し、彼等の身の安全を守る事が出来ると信じ込ませてきた。しかし、このようなことは、イスラエルが定期的に空爆し、レバノン領内の5箇所を占領し続けている限り困難だ。

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高まるイランの影響力

 イスラエルがナスラッラー師他ヒズボラ指導者を暗殺し、さらに、通信系統も破壊した上で、昨年10月1日にレバノンに地上侵攻した結果、ヒズボラはかなり弱体化した。昨年11月にイスラエルとレバノン政府との間で停戦協定が結ばれて現在に至っている。

 停戦協定に基づいてレバノン国軍によるヒズボラの重火器の押収とリタニ川とイスラエルとの国境の間に存在するヒズボラの拠点の除去が進んでいることは前向きの進展だが、ガッタスが、米国やイスラエルがヒズボラの武装解除までを期待するのは楽観的すぎる、と戒めているのは正しい。

 注目すべきは、多数のヒズボラの指導者が殺害された結果、かえって、イランのヒズボラに対するグリップが強まったという点である。近年、ヒズボラはイランと距離を置こうとしているとみられていたが、皮肉にも今回の出来事でイランの影響力が強まってしまった。


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