2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月5日

 ロンドン・キングズ・カレッジ講師のピンフォルドが、Foreign Policy誌のウェブサイトに8月5日付で掲載された論説‘Israel Isn’t a Hegemon Yet, But It’s Now a Revisionist Power’において、イスラエルの戦略が現状維持から修正主義に変化したとみられるが、むしろアラブ諸国はますます離れていくと論じ、米国もその混乱に巻き込まれる恐れがある、と指摘している。要旨は次の通り。

(ロイター/アフロ)

 7月16日、イスラエルは24時間で160回の空爆を行い、シリアに対する軍事介入を劇的に強化した。ネタニヤフ・イスラエル首相はドゥルーズ教徒の兄弟達を虐殺から救うためには他の方法は無かったと正当化した。

 このイスラエルの行動を理解するには、2023年10月のハマスのイスラエル奇襲を機に、イスラエルの戦略が現状維持から軍事力により中東地域を再構成しようとする修正主義に変化したと考えるべきであろう。

 ネタニヤフは、ハマスに対する「完全な勝利」の追求にとどまらず、ヒズボラとイランに対する攻撃にエスカレートした。ここ数カ月、イスラエルは中東の覇権国家になったのかどうかという議論が続いているが、イスラエルの新戦略を誤解した議論だ。イスラエルが目指しているのは、通常の意味での覇権国家ではなく、軍事力を用いて中東の秩序を不安定化し中東地域を再構成することだ。

 イスラエルが求める最終目的は非常に野心的で、軍事的優位を用いて、「完全な勝利」を目指すものだ。ネタニヤフは、「新たな中東の秩序」を明言し、イランの代理勢力を無力化する事により「穏健」アラブ諸国は、イランを恐れる必要が無くなればイスラエルと関係を正常化すると主張している。

 しかし、これは依然としてイスラエルにとり「絵に描いた餅」だ。ネタニヤフの期待にもかかわらず、(ガザ、シリア、レバノンでの)イスラエルの行動は、既にイスラエルとの関係正常化に反対しているアラブ人を一層怒らせ、アラブ諸国の指導者達を制約し、イスラエルとの関係正常化を困難にしている。さらに、親西側のアラブ諸国の間で亀裂を生んでいる。


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