2023年10月から激化したガザ・イスラエル紛争は、25年8月30日現在も恒久的な停戦には至っていない。本書『ガザ、戦下の人道医療援助』(ホーム社)は、国境なき医師(Médecins Sans Frontières:MSF)の「緊急対応コーディネーター」として、24年8月〜9月の6週間パレスチナ自治区ガザで活動した萩原健さんによる貴重な記録だ。筆者の萩原さんに、ガザの状況や国境なき医師団の活動に対する思いを尋ねた。
「国境なき医師団としての活動を始めて17年。これまで、ウクライナやスーダン、イラクなど様々な紛争地で活動してきましたが、ガザは〝人道的危機〟という意味で他とは全くスケールが違いました。このことを、みなさんにもどうか知っていただきたいと思いました」(萩原さん、「 」内、以下同)
ガザ地区は圧倒的な軍事力を持つイスラエル軍によって、多くの建物が完全に破壊され瓦礫の街と化した。イスラエル軍は、軍事攻勢が行われるであろう地区の住民に繰り返し退避要求を突きつけ、人びとをわずかに残された地域に追いやっている。それをイスラエルは人びとの安全確保のためと言い、人びとがたどり着いた地域は〝人道地域〟と呼ばれた。
だが、安全であるはずの〝人道地域〟にすら軍事攻撃がなされているというような状況だ。萩原さんが滞在した6週間、ほぼ毎日イスラエル軍による空爆があった。萩原さんの宿舎からわずか100メートル先が狙われたこともあった。常に命の危機にさらされているような環境下での活動だったのだ。
「今ガザでは、人間が生きていくためのライフラインすべてが絶たれようとしている状態です。〝絶とうとする意図〟をもってイスラエル軍による攻撃が続けられている、そこに人道という配慮は微塵にも存在しないとさえ私は感じます。
例えば、水は最たるもの。水源を握り、海水淡水化プラントの多くを破壊し、修理に必要な物資搬入を阻止する。かろうじて残ったプラントを稼働しようとしても電力は事実上遮断され、代替となる発電機の燃料搬入も阻止される。医薬品・器具、食料、衛生用品の生活必需品搬入も同じことで、石鹸さえ容易に手に入れることができない状況でした」
