2025年12月6日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2025年8月31日

 〝空気〟さえも奪い取ってしまえとイスラエル軍が言い出しても、もはや不思議ではない――。イスラエル軍のさじ加減でガザの人々がどうにでもなってしまう状況を、萩原さんは本書でそう表現している。

危機的な状況に置かれたガザの医療施設

 ガザにはもともと36の医療施設が存在していたが、現在稼働している施設は非常に少ない。完全に機能が保たれている医療施設は、もはや存在しないという。

「私が活動の拠点としていたガザ地区南部のナセル病院は、ガザ最後の生命線となる大きな病院です。でも、私がいた頃から既にキャパシティ超え。病室は満杯で廊下にマットレスを置いて患者を治療している状況でした。

 今年5月にはナセル病院が空爆を受け、6月には病院周辺にもイスラエル軍から退避要求が出され立ち入り禁止区域となり、患者さん、スタッフの病院へのアクセスは困難を極めるようになりました。しかし、全ての患者を移動させられる医療施設は他にない。つまり、軍事攻撃を覚悟した上でナセル病院にとどまるしか選択肢が残されていませんでした」

 萩原さん自身は、滞在期間中に、直接的な攻撃に遭遇することはなかった。だが、連日繰り返されるイスラエル軍による退避要求と周辺地域への軍事攻撃。こうした厳しい環境下において、医療提供体制を整えていくのが緊急対応コーディネーターの主な仕事だ。流動的に変化し続ける状況を正確に見抜き、適切な判断のもとチームを統率し指揮していく必要がある。

 「どんなに優秀な医療チームがいても、活動に結びつけられないと意味がありません。MSFの活動現場というのは、様々な障害により医療サービスが受けられない人びとがいる場所です。安全確保や制度・規制なども障害の一例です。その障害をすべて取り除くことは不可能ですが、可能な限りの対応策を立てて医療活動ができる環境を確保するのが私の仕事です」


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