2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月5日

 他方、米国のトランプ政権は、イスラエルの戦略が変化したことを見誤っている。その結果、トランプ政権はガザの停戦やシリアとイスラエルの停戦に失敗しており、イスラエルとトルコの(勢力範囲についての)暫定合意にも失敗している。トランプが何をオファーしても、ネタニヤフはその修正主義的な立場を変えず、イラン、ヒズボラ、ハマスに対する戦術的な成功を長期的な政治的な成果に方向転換させるつもりはなく、状況は悪化している。

 仮にイスラエルがこのような戦略を続けるのならば、ネタニヤフが主張する「新たな中東」は、現状と大して変わらないものになろう。つまり、ガザでは戦闘が終わらず、アラブ諸国との関係正常化は進まない。

 イスラエルの修正主義戦略は、混乱が広まる事を恐れる域内諸国をイスラエルから一層遠ざけ、その目的もますます遠ざかることになる。トランプがネタニヤフの手綱を握ることに失敗すれば、米国は、現在、同大統領が(イラン空爆で)実践した夢想的な冒険主義に陥ることになる。

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イスラエルは覇権国家にならない

 上記の論説は、中東の現状についての正鵠を射た分析を提供している。文中、「修正主義」という言葉が何回も出てくるが、「修正主義」というのは、既存の秩序を軍事力で変更しようとするあり方を指している。具体的には、イスラエルの新戦略は軍事力により中東地域を再構成しようとしているということだ。

 しかし、上記の論説も指摘する通り、軍事力で強引に中東の秩序を変革しようとしても、イスラエルの強引さに辟易してアラブ諸国はますます離れていき、地域の覇権国家となることはできないだろう。アラブ諸国はいずれも専制独裁国家だが、国民の意向を100%無視することまでは困難だろう。


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