2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月11日

 ネタニヤフ政権はガザの戦争を長引かせ、パレスチナ人を殺しているだけでなく、イスラエルの名声を傷付け、世界で友人を失いつつある、と 2025年8月25日付ニューヨーク・タイムズ紙でトーマス・フリードマンが論じている。

イスラエル軍の攻撃により、パレスチナ人は厳しい生活を余儀なくされている(ロイター/アフロ)

 現イスラエル政府が自殺・殺人・同胞殺人を行っていることは間違いない。イスラエル政府はイスラエルの世界的名声を壊し、ガザの住民を殺しているだけでなく、イスラエル社会と世界のユダヤ人を、何があろうとイスラエルに味方する者と、イスラエル政府がユダヤ国家を導く方向はもはや容認できないと思う者とに分断しつつある。

 イスラエルがガザ南部の病院を攻撃し、医師や記者ら少なくとも 20人を殺したという報道に衝撃を受けた。が、ネタニヤフの言う「悲劇的な事故」は、実は、ネタニヤフが権力保持および自らの刑事裁判やハマスの奇襲を防げなかった責任回避の戦争引き延ばしの必然的副産物なのだ。

 またネタニヤフが首相の座に留まるには、ベザレル・スモトリッチのような極右の閣僚が必要で、スモトリッチはパレスチナ国家の出現を妨げようと西岸で入植活動を行い、さらには西岸とガザをイスラエルに併合すべく両地域からパレスチナ人を追い払おうとしている。ところが、イスラエルは既に軍事勢力としてのハマスは破壊し、「10.7」 攻撃を計画した上位の司令官達もほぼ全員殺害したため、戦争の継続を正当化するには、市民の間に隠れ住む下位の司令官を追わなければならない。

 しかし、敵のトップの司令官を追う中で市民を巻き添えにすることと、例えば副司令官の副官を殺そうとして10数人の市民を死傷させることは全く別で、後者ははるかに邪悪な行為だ。また、軍隊を使って戦闘地域から住民を移動させた後、残された家屋を故意に破壊することも、飢餓で人々がガザを離れるように人道支援を止めるのも邪悪な恥ずべき行為だ。

 また、この戦争は殺人であるだけでなく、自殺でもあり、同胞の殺人でもある。今やイスラエルは自らをのけ者国家にしつつあり、事態は、外国を旅するイスラエル人はイスラエル人であるというだけで敵意を受ける可能性さえある。

 イスラエルは、これは不公正だ、世界はハマスが約1200人を殺し、約250人を拉致し、人質を非人道的状況に置いていることを忘れてしまったようだと言う。確かにハマスがガザの明け渡しに同意し、人質を全員解放すれば、こうした苦しみを終わらせられたかもしれない。全くその通りだ。

 では、なぜ世界は今イスラエルだけを叩くのか。それは世界がイスラエルをハマスより高い水準の存在と見ているからで、そうなったのはイスラエル自身が常に自らを高い水準の存在と規定してきたからだ。


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