2025年12月6日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2025年9月26日

 夏の異常な高温で花の品質が落ち、出荷できる本数が減少する。加えて、そのための対策費も経営に重くのしかかる。

 「球根価格が2020年比で1.5倍ほどになり、資材費の高騰も重なっている。経費は上昇しているのに、それに比べて卸売り価格が上昇しておらず、このままでは日本のユリ農家数が急減するのではないか」

 栃木県に約1.5ヘクタールのハウスを持つ大規模ユリ法人エフ・エフ・ヒライデの平出賢司代表取締役は心配する。

エフ・エフ・ヒライデの温室と平出夫妻(平出賢司氏提供)

 「主力品種としていた球根の価格が20年の1000球あたり300ユーロだったものが420ユーロに上がった。為替相場も2020年は120円/ユーロ程度だったのが今では175円になっている」と平出さんは現状を話す。「背景には、世界的な需要増(新興国需要)と産地国の物価高、環境対応のためのコストが加算されつつある」という。

 「丹精込めて育てたユリを多くの方に届けたいと、リーズナブルな価格で提供ができるようコスト低減に努めてきたが、非常に難しくなってきている」と平出さんは話す。

 さらに追い打ちをかけるのが流通コストの上昇だ。平出さんは市場出荷と並行して、ネット通販など直販に力を入れてきたが、宅配便などの付随経費が高止まりしている。「ネットを見て購入してくださる消費者にとっては宅配料金の高さが購入意欲に水を差している」と感じている。

簡素化する冠婚葬祭、街から消える花屋

 需要の側も縮小を続ける。冠婚葬祭の縮小と花屋の減少で、街と家庭から花が姿を消しつつある。

 冠婚葬祭の場に花は欠かせない存在だったが、ここ10年で結婚式は小規模化し、葬儀も「家族葬」が主流となった。祭壇に飾られる花の量は大幅に減り、葬祭市場も年々縮小傾向にある。

 また、コメ高騰などの食料品の高騰も花消費に影響を与えているようだ。ある県の花担当普及指導員は「物価高の中、消費者は食べ物の消費に手一杯で、ある種の贅沢品と考えられ、花消費まで手が回らないのではないか」と指摘する。

(出所)宇田明記事より 
(注)花屋(花・植木小売業)の店数は、2016年の商業統計では1万9600店だが、それ以降は商業統計が廃止されたため、数は不明としている

 小売の現場でも大きな変化が起きている。町の花屋(花き専門小売業(花・植木小売業))は年々減少し、前述の宇田明氏は全国で2000年と比べ半数以下になったと推測している。筆者がかつて住んでいた東京都下や現在居住する23区内も家族経営の花屋は減っている。生き残っている店でも、輸入花を組み合わせて価格を抑えながら販売する状況である。

街の花屋の実情

 「ピークに比べると花の消費量が3分の1ぐらいに激減している。国産の花もなかなか手に入らず、円安の影響で輸入花も増えず、花が揃わない。生産減と消費縮小の悪循環のようだ」と、70年の歴史を持つ東京都北区の花屋「フローラ花よし」とスタッフは話す。

 同店は家族3人中心の経営で、商店街の真ん中に位置し、人の出入りが絶えない地元密着の人気店である。


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