人間の意識をコピーする
朝目覚めると、自分がコピーであり、仮想空間の中に閉じ込められていると知る。物語はそんな場面から始まる。肉体を維持していくことは簡単ではない。そこで、意識のみをコピーとしてマシンの中にアップロードする。しかし、コピーになった時点で、それは自分とは異なる存在だが、コピーの意識はオリジナルと全く同じ。この状態は、不老不死が本当に実現したといえるのだろうか? もう一人の自分が生まれただけのように思える。そもそも、古代以来、一部の人は不老不死を追い求めてきたが、それは本当に幸せなことなのだろうか。難解だが、科学的思考実験に富んだ一冊だ(上下巻)。
個人によって異なる感じ方
在日コリアン一世の伯父と伯母を持つ著者。戦前、済州島から家族で日本に移り、1945年以降に一度は済州島に戻ったにもかかわらず、なぜ再び日本の大阪に来て生活を始めたのか。「あのー」「えっと」などの話し言葉とともに、4人の個人が生きた等身大の歴史が綴られる。同じ体験でも思い出す記憶が異なっていたり、待遇が悪い収容所での生活を肯定的に捉えていたりと、歴史の主流の中でも、感じることは人それぞれ異なっていたという当たり前のことに気づかされる。
歴史の点が線になる
第二次世界大戦後から欧州連合(EU)離脱の直前までの英国の現代史について、当時の政策や社会運動などの多方面から追う。福祉制度の解体や「鉄の女」などの冷酷なイメージをもつサッチャー政治は、のちの世代の「個人主義」にも影響するなど、様々な〝線〟の歴史がわかり、興味深い。「失われた30年」と言われて硬直化する日本に慣れていると、英国の変化の激しさに驚く。EUから離脱して5年たち、注目せざるを得ない英国について基礎から学ぶことができる。
