まだまだ続く暑さは、衣替えの時期を惑わせます。長引く夏の中で、新しい秋の風をもたらしてくれるのが読書です。
女性たちの埋もれた歴史
「からゆきさん」といえば、森崎和江氏の『からゆきさん』(朝日文庫)が有名である。本書は、著者の山崎朋子氏が天草の食堂で出会った小柄な老婆との「偶然の邂逅」から物語が始まる。その老婆の名はおサキさん。ボルネオの娼館で働かされていた。片仮名も数字も読めないおサキさんに対して、著者は3週間の共同生活を過ごしながら聞き取りを行う。その取材・執筆方法にはただただ感服するが、それ以上におサキさんとの別れの場面は涙なしには読めない。
世界経済の本質を考える
デジタル赤字や巨大テック企業への対応、キャピタルフライトなど多岐にわたるトピックについて、エコノミストの両名の視点でひもとけば、世界経済の本質が見えてくる。例えば、イノベーションには人類に豊かさをもたらす「包摂的」なものと、中間層から仕事を奪い苦痛を強いる「収奪的」なものがある。歴史的には後者が多く「イノベーションが社会を良くする」と手放しには喜べないという。現代の課題を経済の歴史から分析されている内容もあり、示唆に富む一冊だ。
