球磨焼酎の製造会社は全部で27社ある。最も製造量が多いブランド米焼酎が高橋酒造の「白岳」だ。
同社は年間4万石(720万リットル)を製造し、コメ約4000トン(t)を使用する。
球磨焼酎は沖縄の泡盛から伝わったものとされており、タイ産米を使っていた泡盛を踏襲して外国産米を使っていた。それが外国産米の不正転売事件、いわゆる事故米事件騒動があり、一転して国産米を使用するようになっている。国産米は今や、G1表示のために不可欠なものとなっている。
ところが令和のコメ騒動で原料米の入手価格が急騰、「これまでの価格に比べ2倍以上になった」と製造部相談役の藤本俊司氏は語る。
球磨焼酎業界が使用する原料米は主に加工用米と特定米穀(低品位米)の2種類がある。加工用米については主食用米の価格が高騰したことによって加工用米を生産する生産者が減ってしまい、必要量が確保できなくなった。確保しようとすると25年産米は1俵2万円を超える価格になってしまう。
特定米穀も主食用米の価格高騰に引きずられる形で従来入手できた価格に比べ2倍以上になった。このため球磨焼酎組合は、地元の自治体に対策を要請、農水省にも緊急措置として備蓄米の売却を要請してきた。
足枷の多い備蓄米
小泉農相になって備蓄米(20年産米)7万5000tをコメ加工食品業者に売却することが決まり、米焼酎業界も対象になった。ところがこの備蓄米を買い受けるには様々な条件が課せられた。
例えば、備蓄米の買い受け資格者は、過去3年間に加工用米の購入実績がある事業者、もしくは25年産加工用米の購入予定がある事業者になっている。球磨焼酎組合の傘下組合員27社のうち加工用米を購入した実績のある事業者は12事業者で、他は特定米穀を購入している。
高橋酒造も加工用米の使用実績はないためこの規定では備蓄米を購入できない。25年産加工用米を使用する計画を立てようにも生産して契約してくれる生産者がいない。「仮にいたとしてもその価格は2万円以上するため高くて使えない」と藤本氏は嘆く。
こうしたこともあって「国は本当に備蓄米を我々に売るつもりがあるのか」と言わなくてはならないほど苦慮している。実際、7万5000トンの売却計画を建てたもののこうした要件があって申し込み数量は4万3000tに留まっている。
「球磨焼酎業界ではGI表示を続けるため国産米の使用を続けるのか、球磨焼酎の表示を止めて外国産米の使用に踏み切るのか岐路に立たされている」と白岳酒造研究所の人吉蒸留所責任者の井樋好男氏は語る。
高橋酒造は10月から製品販売価格を1割以上値上げすることにしているが、これでも原料米価格高騰を吸収できない。さらに25産米が値上がりすることも想定しなければならないため経営的にも厳しい判断を迫られている。
