2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月8日

 アブラハム合意は、イスラエルとの経済関係の強化、イランとその代理勢力からの攻撃を抑止するための安全保障面での協力を約束している。しかし、イスラエル側がパレスチナ問題の二国家解決への拒絶は同合意を反故にしかねないぐらいに追い込んでいる。イスラエルが自国と協力関係にある主権国家にいる敵に対して軍事力を行使する権利があると主張することは、将来、イスラエルと協力関係を持とうとする国にとって受け入れ難い。

 米国の軍事援助のお陰でイスラエルは中東の地域的な覇権国家となり、ハマスを打ち砕き、ヒズボラを敗北させ、イランを挫いた。しかし、カタールのケースは、同時にイスラエルはより一層孤立させ、さらに、米国の域内での立場を危うくさせ、中東地域を一層混乱に巻き込もうとしている。

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アラブ産油国の米国離れ

 大昔から交渉使節は不可侵という国際的な了解があるが、今回のイスラエルの行為はそれを破るものであり、ネタニヤフ首相は極右派の支持を連立政権につなぎ止めるために行ったのかも知れないが、国際秩序を不安定化させ、言語道断と言わざるを得ない。さらに、この社説が指摘する通り、イスラエルは自ら近隣アラブ諸国との平和共存の可能性を毀損している。

 ペルシャ湾岸のアラブ産油国(GCC諸国)は、その原油収入による豊かさとは裏腹の貧弱な人的資源(例えば、UAEの人口に占める外国人の割合は90%)から長年、安全保障の傘を米国に頼って来た。米国もシェール革命まではこれらの諸国からの原油に依存しており、ウィンウィンの関係だったが、シェール革命で米国が世界最大級の産油国になるとこの関係はきしみ、米国のペルシャ湾岸地域からの撤退が懸念されるようになった。

 実際、バイデン政権時には、1年間で1万人の米軍を中東から撤退させた。その結果、GCC諸国は、中国やロシアとの関係の強化に走り、さらに、GCC諸国にとって最大の脅威であるイランとの宥和を図っている。

 今回の事件は、トランプ政権は、地域の覇権国家を目指すイスラエルの好き勝手を抑えられないということを証明し、彼等の米国離れを加速させるであろう。


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