2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年10月6日

病室の看護師としての働き方

 フランスで働く外国人看護師として話してくれたのは、パリ市内の総合病院に約10年、正社員として勤めるBさん。日本では看護師の母の元に生まれ育ち、自身も看護師資格を取得して公立病院で6年ほど勤務。結婚を機にフランスに移住した。

 フランスでは欧州連合(EU)加盟国など、一部の外国看護師資格でも就業できるが、日本はその中に入っていない。Bさんは看護学校に3年通い、フランスの看護師国家資格を取得した。

 「フランスの看護学校に入学するには、高校卒業相当の学歴が必要ですが、国籍要件はありません。看護師国家資格の上にさらに麻酔看護師・小児看護師・手術看護師の専門看護師資格があり、それとは別に、4年の実務経験後に2年の専門教育を必要とする『管理職看護師国家資格』があります。私は病室勤務が好きなので、上の資格を目指すのではなく、実践のスキルアップ研修を主に受けています」

 フランスで働く外国資格の看護師は全体の3%と、EU諸国の中では少ない方だ。Bさんのようにフランス国家資格を取得し直したケースはもちろんこの3%には含まれず、外国籍の看護師の割合はさらに多いとみられる。

(gorodenkoff/gettyimages)

 Bさんの現在のポストは、心臓・冠動脈系の集中治療ユニット(CCU)。8時から20時までの12時間勤務で、2〜3日連勤のあと2〜3日連休を組み合わせるシフトで働く。夜勤はしない日勤専業だ。

 「日本では看護師の働き方は多様で、ある病院では100種類以上のシフトがあると聞きました。フランスでは、正社員の働き方は12時間勤務の日勤もしくは夜勤が主流です。それもはっきりと分担されていて、日勤専業の看護師が夜勤シフトに入ることはなく、逆もありません」

 基本契約は週35時間労働。年次休暇は法定の年5週間に、週35時間を超える実労働時間を調整するための休日が年に33日間ほど加わる。さらに看護師の労働協約で年11日の休日があるため、フランス社会の中でも「休日の多い職業」と言える。

 「1回の出勤日の勤務時間が長く、その分休みが多い職業です。長時間の肉体労働をしてくれるのだから、しっかり休めるように、との社会の理解を感じます。長期休暇に出る時には、患者さんからも『しっかり休んできてね!』と送り出されるくらい。看護職を選ぶ人にはこれが重要な点で、私も同僚も、だからこの仕事を続けられる、と話しています」

 「日勤の基本給は低い」とBさんは言うが、看護師10年目の今、各種の手当や加算によって、手取り月給はほぼ毎月2500〜3000ユーロ(1ユーロ170円換算で42万5000円〜51万円。フランスは日本より物価が高い)となる。夜勤はさらに手当が加算されるため、移民世帯が多い困窮地区では、「一発逆転で金持ちになる」手段として夜勤専業看護師を目指し、看護師資格を取得する若者も少なくない。「大金を稼ぐにはドラッグの売人になるか、夜勤看護師になるか」と、まことしやかに言われるそうだ。

 「フランスの看護師は、業務や働き方が法律や労働協約できっちり決められている、という特徴もあります。私たちが担うのは、法律に定められた仕事だけ。それ以上もそれ以下もしてはならないので、上司からも医師からも求められません。研修は業務時間内に勤め先の経費負担で受けますし、カンファレンスや委員会も勤務時間内で済ませるのがマストです」

 看護師のキャリア形成に勤務先の病院が時間とお金をかけるので、それまでのキャリアにそぐわない配属先に異動となることは「ありえない」。業務のあり方と働き方が明確に遵法意識で守られるからこそ、フランス語さえできれば、外国人にも選びやすい職業なのだろう。

 「フランスは労働組合の活動が活発ですが、看護師の世界でもそうで、その恩恵はもちろん、国籍を問わず一労働者として受けられます。私自身も数年前、ユニットの専門性に見合った加算を求めて、同僚と一緒に経営層と交渉をしました。3回ほど話し合いをして、要求が受け入れられたのは嬉しかったです。働き方や待遇の改善のために自分たちで動けて、上層部もそれに聞く耳を持つと、居心地やモチベーションは確かに上がりますよね」

 外国人であることで、仕事で困ることはないとBさんは言う。

 「看護師の職能と哲学、志は万国共通なので、職の面でつまずくことはほぼないと思います。言葉の壁を越えられたら、働く場所の選択肢は多いんです」


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