2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年10月6日

 上司や同僚、医師たちからも、国籍を理由に不適切な扱いを受けたことはない。フランスの医療従事者は皆、フランクに敬称なしで呼び合う文化があり、その影響もあるのでは、とBさん。一方患者からは、外国人差別、女性差別、職業差別の言動を、少なからず受けてきた。

 「フランスは階層意識の強い社会で、看護師は肉体労働、ブルーカラーの仕事と見られています。でも私が受けた言動は、フランス独特の体験でもないとも思うんです。パリでは、そのような言動をする患者さんの国籍や出自も様々でした。そして何よりも、病室という環境が特殊ですから。食事や排泄に他者が介入し、本来プライベートな空間に他人がどんどん入ってくる。そこでの言動は、一般社会と同じ文脈で考えることはできないんです」

外国人労働者への論調は違うフェーズに

 外国人のエッセンシャルワーカーとしてフランスで働くAさん、Bさんの言葉からは、「正規の資格と契約で仕事をしている以上、国籍や出自は関係ない」という、フランスの社会通念と実践が見えてくる。

 またエッセンシャルワークが「社会に必要とされている仕事」として認められ、働き方や待遇が整備されているからこそ、国境を越えての人材確保が可能になっているのだろう。実際に、母国にいた時の事務職ではなく、保育士職を選んだAさんは「サービス残業がなく、長期休暇を大事にする、フランス社会の働き方が影響していたと思う」と語る。

 冒頭にも述べたが、フランスでは今でも、外国人排斥を主張する極右の勢力は落ちていない。EU諸国に比して高いフランスの失業率を、外国人労働者に起因させる説は根強くある。一方、経済・産業分野では、「移民労働者を受け入れていてもなお、なぜフランスでは、人手不足と高い失業率が併存しているのか」について、現実的な議論が行われている。

 国内の人材にすら「働きたくない」と思わせる雇用体制と、失業者を雇用に繋げる就業支援の不備、長い失業状態が維持されてしまう失業保険制度――外国人に社会問題の責を負わせる前に、考えるべきことはあるのではないか、と。

 長年、外国人排斥論を弄する極右勢力に悩まされてきたフランス社会では今、移民や外国人労働者をめぐる論調が、違うフェーズに移りつつある。日本とフランスは歴史も文化も異なり、社会問題のありようも違うが、排外主義という思想の広がりを前にして、得られる示唆はあるのではないだろうか。

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