2025年12月6日(土)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年10月11日

 そして、今日私が語っている言葉があなたの心を沈ませているのなら、あなたは名誉ある行動を取って辞任すべきだと述べた。

戦闘能力が低下するという批判も

 民主党寄りと常日頃から政権が批判している主要メディアの多くは、このヘグセスの演説を驚きをもって報じた。髭がいけないという箇所で、バンス副大統領を思い浮かべた者もいただろうし、多様性への過度な配慮の終了という箇所で、自らゲイであると公表しているベッセント財務長官を思い出した者もいたはずである。

バンス副大統領(右)の「髭」は批判されないのか(dvids)

 軍の多様性の歴史を振り返ると、アフリカ系は、武器を持たせると敵でなく味方の白人を撃つからと後方任務を中心に担わされてきた時期が長く、また、航空機搭乗なども禁止されてきた期間があった。また、昇進においても差別されようやく高位の地位に就くものが増えてきていた。

 同性愛者は1993年に性指向を表明しなければ軍務につくことが黙認され、2011年には表明しても可能となっていた。2015年には女性のあらゆる戦闘任務への従事が認められていた。それらがバイデン政権のDEIによってより進められてきたのが、ここにきて大きく後退することをヘグセスの演説は意味していた。

 現役軍人の多くが自分の将来を案じて今回のヘグセス発言について口を閉ざす中、退役軍人の中には懸念を口にするものもあった。公共放送PBSにおいて、男性の最高基準を満たして空挺部隊で活躍したある女性退役軍人は、米軍の戦闘能力の低下という観点から懸念を表明した。

 現代の軍隊は多様な軍事専門職から成っており、創造性や知性、専門技術など、職種ごとにそれぞれに違う基準を設けることで多様な人材を集めることが出来ると説明した。敵中にパラシュート降下して戦う兵士とドローンの操縦を専らとする兵士では適性が違い、一律の基準を科すと米軍全体としての戦闘能力が下がるというのである。また、戦闘能力の要は、信頼の構築や困難の共有であって150キロのバーベルと持ち上げることではないとした。

演説を喜ぶ人も

 ヘグセスの演説がトランプ支持でない人々に与えた衝撃の強さは、政治風刺が効いていることで有名なお笑いバラエティ番組「サタデーナイトライブ」が、早速番組のオープニングで、その週のトランプ大統領の話題となった様々な発言でなく、このヘグセスの演説のパロディを扱ったことにも表れている。

 ただ、この演説を聞いた者すべてが批判的だったわけではない。多様性促進がとりやめになれば、白人男性の昇進のスピードは速まるであろうし、そもそも非白人や女性が優遇されることを面白く思っていなかった軍人も少なからずいただろう。ヘグセスの演説を聞いていた将官の中から「すばらしい」という声が上がるのをマイクが拾っていた場面もあったのである。

 トランプ政権の多様性に逆行する動きの影には、それを待ち焦がれていた多くの人々の支持があることを忘れてはならない。

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