米国による新たな制裁の〝威力〟
二つ目は、ロシアの石油関連歳入への影響である。ロシア財務省のデータによると、今年8月時点において、ロシアの歳入に占める石油ガスの割合は25.4%。ロシアのエネルギーセクターに対する欧米制裁による影響があるとはいえ、依然として最も大きな歳入源となっている。
この歳入は、主にロシアのエネルギー企業が支払う鉱物資源採掘税等の税収によって構成されるため、ドローン攻撃により稼働率が低下した製油所への原油供給が減り、ガソリン輸出が禁止されても、海外への原油としての輸出が拡大すれば、歳入への大きな影響はないように見える。
しかしながら、ここにきて大きく事態を変えうる米国制裁が発動された。トランプ政権は10月22日付で、ロシア最大の石油会社ロスネフチと同第二位のルクオイルを特別指定国民(SDN:Specially Designated Nationals)に指定した。SDN指定された法人は、米国での資産凍結や米国人との取引禁止という制裁が科されるのに加え、「重要な取引」を行った第三国の法人も米国制裁の域外適用(いわゆる「二次制裁」)となり、影響が大きい。
ロスネフチの原油生産量は約370万バレル/日量でロシア国内シェアは約40%、ルクオイルは同約90万バレル/日量で同シェアは約15%、合計でロシア全体の石油生産の約50%を占める。まさにロシアの石油歳入をもたらす基幹となる企業二社だ。
米国エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2025年第一四半期、ロシア産原油の46%が中国、36%がインド、6%がトルコに輸出されている。中国向けの原油輸出は、主に東シベリア・太平洋(ESPO)石油パイプラインを介したもので、中ロ政府間の契約に基づいている点や、インド向けタンカーによる原油輸出は、かねてより「影の船団(シャドー・フリート)」が使用されているため、輸送ルートの不透明性より、米国二次制裁の影響は限定的とする見方もある。だが、今後のポイントは、ロスネフチやルクオイルからの原油購入を継続する中国、インド、トルコの企業に対し、どこまで米国政府が「二次制裁の執行を行うか」に拠るといえる。
ウクライナのドローン攻撃によりロシア製油所の稼働率が大幅に低下し、それらへの原油供給が減少する中、米国は、中国、インド向け原油輸出を担う最大手のロシア石油会社をタイムリーに制裁対象とした。つまり、トランプ政権のロシア製油所へのドローン攻撃の容認・支持は、今般のロシア石油最大手二社への制裁とパッケージで進められているとみなすことが可能だ。
ロシアにとって戦費の源泉となってきた石油輸出歳入がどこまで削がれることになるのか、その動向が注目される。
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