2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年9月17日

 パリ政治学院教授で作家のジュリアーノ・ダ・エンポリ氏による著作『クレムリンの魔術師』が映画化され、8月27日から開幕したベネチア国際映画祭でプレミア上映された。本著の中心テーマは「権力と演出」であり、主人公は元ロシア大統領補佐官で南オセチア・アブハジアやウクライナ東部問題を担当したウラジスラフ・スリコフ氏をモデルとする。

 この架空の人物は、テレビのリアリティ番組のプロデューサーという経歴を持ち、プーチン政権の「演出家」としてクレムリンの中枢で国民感情や世論を操作し、権力を自在に操る存在となる。ここでは、プーチン政権のプロパガンダが揶揄されるとともに、政治は「演出される舞台」として描かれている。

(代表撮影/AP/アフロ)

 プーチン大統領は、アラスカでの米露首脳会談を、極めて演出効果の高い「象徴的な舞台」になると考えたに違いない。8月15日に向けて、ロシア国営テレビに登場するコメンテーターは、会談結果はいずれにしてもモスクワに有利なものになると予想し、22年2月のウクライナ侵攻以来、西側がプーチン政権に押し付けた「国際的な孤立」を終わらせるものだと口角泡を飛ばして主張していた――。筆者は、ロシア国内報道に詳しい専門家から、こう聞いた。

 会談当日、プーチン大統領はアラスカ到着時、レッドカーペットに米国空軍のF-22戦闘機による儀礼飛行で歓待された。トランプ大統領の専用リムジン(ビースト)に同乗して会談会場に向かうプーチン大統領の姿は、「米国と対等に渡り合うロシア」を演出するには十分であっただろう。

 アラスカという会談場所もロシアにとっては好都合だった。18世紀半ばから1867年までロシア領であり、アラスカには今もロシア正教会の教会建築や地名、文化的伝統が残っており、ロシア人の歴史的存在を示す痕跡が多くみられる。「失われた帝国の記憶」をロシア社会に想起させるには象徴的な場所といえる。


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