極東連邦管区訪問という〝演出〟
ロシア国内に向けた「演出」にプーチン大統領はさらに周到だった。今回の米露首脳会談が行われたアラスカへの往路と復路で、ロシア極東連邦管区に属するマガダン州とチュクチ自治管区を訪問している。
マガダン州では、プーチン大統領は、水産会社の工場やスポーツ施設を視察するとともに、同州知事のノソフ氏と、感染症病院の再建計画や護岸工事、金・レアメタルの採掘事業などについて協議した。チュクチ自治管区では、クズネツォフ知事から同自治管区の経済状況や銅採掘プロジェクトについて報告を受けた。
ウクライナでの戦争はロシア各地から集められた志願兵が中心となっているが、極東連邦管区からの出身者が特に多い。ロシア独立系メディアMediazonaが報じる10万人あたりの戦死者数は、チュクチ自治管区は238.6人で最も高く、マガダン州も125.6人で他地域に比較して高い。
就業機会が乏しく貧しい地方の志願兵に、連邦政府は多額の経済的インセンティブを提示しているが、「米国に向こうを張る」アラスカでの首脳会談を通じて、ウクライナで闘う「大義」をプーチン大統領は示す必要があったのだろう。
プーチンは「短期的な課題の解決ばかり」
「演出」はさておき、アラスカ首脳会談の実質的な内容について、ロシアの有識者はどう評価しているのだろうか。ロシアの外交官などを養成するモスクワ国際関係大学の国際関係学部長アンドレイ・スシェンツォフ氏は、「米国は即時停戦ではなく、根本的解決(=和平合意)の必要性に同意し、ロシアは目的を達成した」「首脳会談の結果は、ロシアが主張するシナリオに沿って政治プロセスが進み始めていることを示している。ウクライナと欧州連合(EU)はこの現実を考慮に入れなければならない」とロシアメディアに述べている。
プーチン大統領は、ウクライナ侵攻の根本原因が「ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を含むNATOの東方拡大」にあると明確に繰り返すようになったが、これをトランプ大統領と対峙するにあたっては、「和平合意」という表現に置き換え、「めくらまし」のように使ったとも言えなくない。
トランプ大統領はSNSを通じ「ウクライナの安全の保証」をプーチン大統領が受け入れる用意があるとの見解を首脳会談時に示したと主張している。米国のウィトコフ大統領特使も「プーチン氏がNATO第5条のような集団安全保障の枠組みに同意する用意がある」とCNNのインタビューに答えている。
ただ、この点についてプーチン大統領自身は公式には何も述べておらず、プーチン大統領の側近達は既に予防線をはっている。NATO加盟国30数カ国がオンラインにて、ウクライナの安全保障について協議した際、ラブロフ外相は「ロシアを巻き込まず安全保障を議論することはユートピアであり、どこにも通じない道である」とロシアメディアに発言し、ウクライナでの欧州軍の駐留にロシアは「拒否権」を行使しなければならないと主張している。
