「チェック・アンド・バランス」崩壊の危機
第2のトランプの懸念材料は、米連邦最高裁がトランプの関税措置に違憲との判断を下す可能性である。
トランプが1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて、輸入品に関税を課したのは違憲かについての玩具メーカーの関税訴訟に関して、11月5日連邦最高裁は口頭弁論を開いた。米メディアによれば、保守派のジョン・ロバーツ連邦裁判所長官およびトランプが任命したニール・ゴーサッチ判事とエイミー・バレット判事までが、トランプの関税措置に疑問投げかけた。
そもそも、国際緊急経済権限法には関税は含まれていないからだ。にもかかわらず、強引に貿易相手国に関税をかけるトランプは、米議会から関税の権限を奪い、「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」を崩そうとしている。
現在、連邦最高裁は保守派6名、リベラル派3人で構成されているが、仮に上記の3人の判事がトランプの関税措置を違憲とする側に回り、6対3になれば、米国の輸入業者と消費者には朗報である。
あるいは、政治化された連邦最高裁が「ウラ技」を使い、違憲としながらも、貿易相手国に対する払い戻しは「混乱」を招くとして、これまで徴収した関税収入について払い戻しは行わないとするのか、いずれにしても連邦最高裁の判断に注目が集まる。
ちなみに、ギャラップ社の全国世論調査(2025年9月2~16日実施)によれば、連邦最高裁に対して42%が「支持する」、52%が「支持しない」と答え、不支持が支持を10ポイント上回った。また、英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(同年11月15~17日実施)では、連邦最高裁はトランプ関税を無効とすべきかという質問に対して、49%が「無効にすべき」、33%が「そのままにしておく」、18%が「分からない」と回答し、「無効」が最も多かった。
「ゲーム2」と「プランB」
このような状況下で、トランプは「ゲーム2」、ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官は「プランB」という言葉を用いて、代替根拠法を模索している。
ブルームバーグ(電子版 11月5日付)によれば、違憲判断が下された場合、トランプは1962年通商拡大法232条を代替根拠法として用いる可能性がある。232条により、大統領は国家安全保障の理由から輸入品に関税を課すことができる。
ただ、通商拡大法232条は、アルミ製品、鉄鋼、自動車並びに自動車部品といった特定の産業分野の輸入品に適用するものであり、現在トランプが多数の貿易相手国の輸入品に課しているような包括的な課税を認めている訳ではない。
そこで、1974年通商法201条も代替根拠法の候補になる。同法201条では、輸入品が国内産業に深刻な損害を与えると判断した場合、大統領は関税を課すことができる。ただし、232条と同様、これも特定産業を対象としたものであり、トランプが課しているような広範囲に及ぶ産業ではない。
さらに、1974年通商法301条も代替根拠法の候補だ。通商法301条では、貿易相手国が米企業に対して差別的である場合、大統領は複数国に対しても可能だが、基本的には特定の1カ国を対象に報復関税を発動する。
ということは、4月2日を「開放の日」と位置づけて、ホワイトハウスのローズガーデンで、大々的に関税措置を発表したトランプだが、上記のいずれの代替根拠法を使用しても、彼が強く望む関税措置の根拠を完全に充たす訳ではない。MAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする運動に賛同する人々)に対して、関税効果を強くアピールしてきたトランプは、面子を保つことができるのか、これも彼の懸念材料になるだろう。
