ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外官職名および敬称等略)は、その動静、SNSの発信、政策とその実施、過去のスキャンダルを巡って、連日マスコミに登場している。ホワイトハウスは常に動いている。
同時に、州レベルや地方レベルでも、ワシントンに絡む重要なイベントが進行している。これまでも、「トランプの期限」――来年の米中間選挙とトランプの政策について記してきた。中でも注目すべきなのは、中間選挙を占うような連邦下院議員の補欠選挙である。
その1つが、9月9日に行われた知日派のジェリー・コノリー下院議員(南部バージニア州第11選挙区・民主党)の死去(5月21日)に伴って実施された補欠選挙である。
2024年の米大統領選挙では、東部ペンシルベニア州や中西部ミシガン州を含めた7州が激戦州と呼ばれたが、08年並びに12年の米大統領選挙では、共和党の牙城であったバージニア州が激戦州として最も注目を集めた。
バージニア州第11選挙区は、首都ワシントンD.C.の郊外にあり、「ノーザンバージニア」と呼ばれ、D.C.通勤圏となっている。2023年国勢調査によれば、第11選挙区の人口は78万3583人で、平均年齢は39歳である。
人種は白人47%、アジア系22%、ヒスパニック系15%、黒人9%と続く。コノリーの選挙事務所が置かれているアナンデールには韓国系米国人のコミュニティーがある。同選挙区の平均年収は最近の為替レートで14万8511ドル(約2200万円)になり、バージニア州の平均年収の約1.5倍、全米の約2倍である。
同選挙区はブルー(民主党のカラー)と言われているが、2012年米大統領選挙で同選挙区のフェアファックスにあったオバマ選挙対策事務所の責任者は、当時筆者が戸別訪問をした富裕層が住むオークトンをピンク(薄い赤 赤は共和党のカラー)と呼んでいた。
コノリーは、2008年オバマ旋風に乗り、共和党候補を破り初当選した。しかし、2年後の2010年の中間選挙では、保守系の市民運動ティーパーティー(茶会)の風が吹き、ティーパーティー候補に対して大苦戦を強いられた。結果、得票率49.2%対48.8%の大接戦で、辛くも勝利を収めた。振り返ってみると、このときの下院選が、コノリーにとって最も厳しい選挙戦であった。その後は、2024年の選挙まで共和党候補に快勝した。
近年では、民主党内の役員選挙において、穏健派のベテラン議員コノリーは、左派のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員(東部ニューヨーク州第14選挙区)を破り、下院行政監視・政府改革委員会の少数派筆頭理事に就任した。死の直前までコノリーは、政府効率化省(DOGE)を率いた実業家イーロン・マスク氏やトランプと真っ向から対立するなど、その責を果たした。
筆者は2010年、14年および18年の中間選挙において、研究の一環としてコノリー陣営に入り、バージニア州フェアファックスで戸別訪問を実施した経験がある。
今回の予備選挙で勝利した民主党のジェームズ・ウォーキンショー氏は、コノリーの元首席補佐官でスタッフをまとめてきた。ウォーキンショーは、コノリーをメンター(師)と仰ぎ、彼が歩いてきた道を受け継いで、トランプと戦う姿勢をみせた。この予備選挙におけるウォーキンショーの勝利の意味をどう解したらよいのか、2026年米中間選挙を視野に入れながら考えてみたい。
