2025年12月6日(土)

トランプ2.0

2025年9月18日

 今年7月の日米の関税交渉同意に基づいて、9月4日(以下、現地時間)首都ワシントンで、赤沢亮正経済再生担当大臣(以下、初出以外官職名および敬称等略)とハワード・ラトニック商務長官が文書に署名した。日米両政府が署名した戦略的投資に関する覚書で明記された投資の選定の仕方や資金提供等について、専門家から一般の人々まで「不平等」であるという意見が多く出されている。

 以下では、今回の日米関税交渉における赤沢の交渉戦術について触れた後で、ドナルド・トランプ米大統領の交渉戦術に焦点を当てて述べる。

(wildpixel/gettyimages)

赤沢の交渉戦術

 署名直後にワシントンで行われた記者会見で、ある記者が興味深い質問を赤沢に発した。トランプが4月2日に日本からの輸入品に課した24%の相互関税率の引き下げではなく、「撤廃」を要求した理由は何かという内容だった。一般的には、撤廃は非現実的に見られる。

 赤沢の答えは、「交渉相手に対して話をしていた」というものであった。「相互関税の引き下げ」は現実的な目標であるが、「撤廃」から交渉を初めて、最終的に米国側から有利な関税引き下げ率を引き出す交渉戦術であった。

 赤沢には自身がプロフェッショナルな交渉人であるという誇りや自負があり、彼は、所謂、素人の記者団に撤廃は交渉戦術の一つであったと示したかったのだろう。

「彼等の仕事」

 関税交渉で日本側は、日本の基幹産業である自動車に対する関税率引き下げを最優先にしたために、大きな代償を支払った。ラトニックは署名後何日かして、経済専門局CNBCの番組に登場し、日本からの輸入品に対する15%の関税率と5500億ドル(約80兆円)の投資のディール(取引)を、今回の日米関税交渉における最大の成果として挙げ、「トランプ大統領だからできた」と褒め上げた。

 また、ラトニックは同番組で「どうやって5500億ドルの算段をつけるかは、彼等(日本)の仕事だ」と語り、米国の関知するところではないと突き放した。

 さらに、米国は日本の資金を活用して米国内の半導体や医薬品等のプロジェクトに投資すると述べた。しかし、ラトニックが国民向けにスポットを当てたくない領域は、レアアースのプロジェクトであろう。実際、米国の鉱物資源開発会社が日本の資金を狙っていると思われる。

「ウィン・ウィン」は本当にあるのか?

 9月12日、参院予算委員会に出席した赤沢は、野党議員からの5500億ドルの投資に関する質問に対して、日米関係は「ウィン・ウィン」になると回答した。日米両政府が交わした覚書によれば、投資先を推薦および監督する投資委員会を、米大統領が設置する。同委員会は、日本からの約80兆円を使って行うプロジェクトを推薦し、その中から米大統領がプロジェクトを選定する。同委員会の議長は米商務長官が務める。

 また、投資委員会は、日米両国から指名されるメンバーから構成される協議委員会と、米大統領への推薦に先立ち協議を行う。そこで日本側が特定のプロジェクトに反対した場合、そのプロジェクトはトランプまで上がっていくのかという野党議員からの質問に、赤沢は明確に答えなかった。

 投資委員会のメンバーは誰が選ぶのか。誰がメンバーに入るのか。

 協議委員会のメンバーは「日米両国から指名される」とはどういう意味か。その協議委員会の構成メンバーの割合は、どのようになっているのか。誰がメンバーを指名するのか。協議委員会と投資委員会の力関係はどうなっているのか。そもそも、仕組み上で日本が弱くなっていないのか――様々な問題が存在する。

 赤沢は、参院予算委員会で自動車産業を守った点でのディールであったということを強調した。確かに、その点では「ウィン」と言える。

 しかし、覚書には、「日本が指定された口座に米ドル建ての即時利用可能な資金を拠出する」と明記され、利益の配分は「米国が90%」となっている。これで本当に、「ウィン・ウィン」はあるのだろうか。「ウィン・ルーズ」にならないのか――非常に不安である。


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