2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年9月25日

ウォーキンショーの勝因

ウォーキンショー氏(同氏Xより)

 ウォーキンショーは、トランプ政権を「米国史上もっとも腐敗した政権」と徹底的に批判し、争点を、同政権の目玉政策である政府効率化省による連邦政府職員削減、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)削減を含めた減税・歳出法および、最近トランプが積極的に推し進めている民主党系都市への州兵派遣に定めた。

 対する退役軍人で元連邦捜査局職員(FBI)の共和党候補、スチュワート・ウィットソン氏は、トランプの政策である犯罪対策、反トランスジェンダーおよび政府効率化省を支持して選挙戦に挑んだ。

 結果はウォーキンショーが75.14%、ウィットソンが24.67%の得票率で、ウォーキンショーが約50ポイント差で圧勝した。2024年の選挙では、コノリーの得票率は66.7%であったので、ウォーキンショーは、コノリーのそれを約8ポイント上回った。選挙結果についてコノリーの前首席補佐官ジェイミー・スミス氏に尋ねると、彼は、ウォーキンショーとウィットソンの予想を遥かに超える得票率の差に驚いていた。

ウィットソン氏(同氏Xより)

 ウォーキンショーの勝因については、いくつも挙げられるが、殊に、連邦政府職員が多く住んでいるバージニア州第11選挙区で、ウォーキンショー陣営が反政府効率化省の選挙戦略を展開した点は効果的であったとみられる。政府効率化省は、連邦職員の大量解雇を実施したからだ。

 加えて、少女に対する性犯罪で有罪になり、その後独房で死亡した米資産家ジェフリー・エプスタイン元被告(詳細は「トランプを悩ます亡霊」参照)に関する文書の公開を求める一部の共和党支持者が、ウォーキンショーに投票したと言われる。エプスタインとトランプの親交が取り沙汰されているからだ。全国民の関心がエプスタイン事件に向いていた時期であったことが、ウォーキンショーに味方した。さらに、民主党系都市への州兵派遣に関しても、トランプへの反対票が入った。

「犯罪が争点になる」=「犯罪を争点にする」トランプ

 なぜ、ウィットソンが犯罪と州兵派遣を選挙戦の主要な争点に置いても、有権者の支持獲得に至らなかったのか。 

 トランプはロサンゼルスと首都ワシントンD.C.に州兵を派遣し、南部テネシー州メンフィスにも派遣する大統領令に署名した。また、シカゴ、セントルイスやニューオリンズにも派遣を検討している。上で述べたように、これらは知事か市長が民主党系である。

 ここで世論調査をみてみよう。英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(2025年9月12~15日実施)によれば、「あなたにとって最も重要な争点は何ですか」という質問に関して、「インフレと物価」が24%でトップ、次いで「雇用と経済」が11%、「移民」と「医療」が共に9%であったのに対して、「犯罪」は僅か4%であった。トランプは来年11月3日の中間選挙は「犯罪が争点になる」と述べ、民主党系の都市に州兵を送り、犯罪対策をアピールしているが、彼と米国民の認識の間には隔たりがある。

 その隔たりをトランプは当然把握していると考えられる故に、彼のこの「犯罪が争点になる」は、「犯罪を争点にする」と読み替えなければならない。それに向けてトランプは、準備的に動き出している。それが州兵派遣なのだ。

恐怖心による支配

 州兵の派遣についても、トランプと米国民の間に認識のズレがある。米国では州兵は、平時は各州の知事の指揮下にあるが、有事の際は、大統領の命令により連邦政府の指揮下に置かれる予備役軍である。問題は、誰が何を有事と決めるかだ。

 上の調査(同年8月29~9月2日実施)では、「犯罪と戦うために、ドナルド・トランプが都市に連邦軍を派遣することに賛成か」という質問に対して、42%(「強く」と「いくらか」の合算、以下同)が賛成、49%が反対と回答し、反対が賛成を7ポイント上回った。また、民主党の市長の都市に対する連邦軍の派遣については、賛成39%、反対48%、共和党の市長の都市への派遣は賛成37%、反対47%と党派を問わず、反対が賛成よりも多い。また、連邦軍派遣に反対している知事の州の都市に派遣することに関しても、賛成41%、反対47%で反対が賛成を上回った。軍の派遣は、どちらかと言えば米国民に不人気だ。

 さらに、実施日の異なる同世論調査(同年9月12~15日実施)によると、トランプの政策に関して「雇用と経済」「インフレと物価」「移民」「市民権」並びに「銃」は、すべて「不支持」が「支持」を上回った。「犯罪」が唯一「支持」が「不支持」を7ポイントリードし、8月の同調査結果と比べると、5ポイント上がった。州兵の派遣により、首都ワシントンD.C.における治安が改善したと繰り返しアピールした効果が出たのかもしれない。

 そこで、トランプは有権者の目を民主党系都市の犯罪に向けさせ、犯罪対策を全面に出して、準備をしている。また、トランプはエプスタイン文書にスポットが当たらないように、州兵派遣を争点にして、犯罪に強い大統領を演出しているのだ。

 何よりもトランプが狙っているのは、人々の自由な行動や異なる意見の表明を抑圧することである。その行きつく先は、州兵、FBIや移民・関税捜査局(ICE)を使って恐怖心を与えて、人々に自主規制(self-regulation)や自己検閲(self-censorship)をさせて、反対意見が出ない社会や国家である。反対論の出ない社会や国家を作り、トランプは「全ての国民が自分を支持している」と言うだろう。まさに、民主主義と自由主義を危険にさらしているのだ。


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