叡山電車の一乗寺駅から徒歩数分の場所にあるシェア型書店「一乗寺ブックアパートメント」。共同通信の記者を早期退職した北本一郎さん(60歳)が2024年に開業した。書棚を借りた個人オーナーたちが厳選した本が並んでいるだけに、普通の書店以上に「読んでほしい」というオーラが伝わってくる。福岡県出身で京都大学卒の北本さんは「とにかく新しいことをしてみたかったんです」という。
ここで待ち合わせた越道京子さん(47歳)も東京出身で京大卒。一度は東京で就職したが、京都に戻ってきた。21年には一人出版社「実生社」を創業した。
「最初は、アルバイトで麻雀の雑誌をつくっていました。その後は、翻訳書、農業雑誌などと渡り歩いてきました」という越道さんは1978年生まれで、就職氷河期世代。
「資本主義がね、進みすぎたんですよ。人のつながりがあれば、お金はなくても、昔は生きていられました。京都はまだ、東京ほどお金の力が強くありません。宗教都市でもあり、精神や歴史的なものに価値が見出されます」
確かに越道さんが住んだ、国内で最古とされる京大吉田寮も、耐用年数や効率性だけ考えればもっと早く建て替えが進んでいたかもしれない。耐震性という課題があるにしても、それだけでは語れない価値があるのだ。
「吉田寮は専門が違う人が集う場所でもあります。京大からは今年もノーベル賞受賞者が出ましたが、大事なことは仲間だと思うんです。ある研究者がすごい成果を出したとしても、周囲からの影響も受けている。例えば『京都学派』と、それに続く『新京都学派』と呼ばれるグループがあります。哲学者の西田幾太郎、生態学者の今西錦司などによる一派で、 文理関係なく影響し合っています。全然専門の違う人たちで議論したことが、互いの研究にとってのヒントになるのです」
昨年手がけた『究極の学び場 京大吉田寮』もそんな思いが込められた本だ。
