2025年12月14日(日)

令和の京都地図

2025年11月27日

胸に残るある後悔

 越道さんには、出版社を立ち上げるきっかけにもなった一冊の本がある。日下次郎著『ある社会主義者の一生 前田陸雄評伝』(三一書房)。越道さんの祖母が広島の中国新聞記者に執筆をお願いして自費出版したものだ。

 「戦争中、治安維持法違反で投獄されたこともある祖父について、祖母は何も語りませんでした。でも、この本を残してくれ、自分のルーツをたどることで、歴史とつながることができたのです。本だからこそ時代を超えても読み継がれる。手渡すこともできる。この価値は、お金には代えられません」

『おやすみ短歌 三人がえらんで書いた安眠へさそってくれる百人一首』(枡野浩一、pha、佐藤文香・編著、実生社)。越道さんによると「読むと眠くなる歌ばかり集めた、現代版の百人一首です。エッセーつきで初心者にもわかりやすく、一番の売れ筋です!」とのこと

 そんな越道さんには、ある後悔がある。

 「広島生まれの祖母は、弟を原爆で失っていたんです。祖母の死後、伯父から教えてもらいました。祖母は亡くなる前に身辺整理して日記や写真を処分していました。もっと話を聞いておけば良かったです」

 「土が好きだ」という越道さん。出版社の名前である「実生」とは種が土に落ちて発芽すること。出版業界の環境は厳しいが、小さな出版社だからこそできることはあると言う。

 「それぞれの種は、豊かな個性を持っています。種から植物を育てるように、それぞれの原稿の個性を見極めて、最大限に魅力を引き出すことを心がけています。紙代や印刷代など値上がりしていますが、たくさんの出版社で経験を積んできたおかげで、私にはコストをかけずに本作りをするノウハウがあります。これからも広める価値がある本を作りたいですね」

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Wedge 2025年12月号より
令和の京都地図 古くて新しい都のデザイン
令和の京都地図 古くて新しい都のデザイン

時代が変わるたび、京都は常に進化を遂げてきた。「千年の都」京都は今後、どう変わってゆくのか。日本人のみならず、世界中の人々を惹きつけてやまない魅力や吸引力はどこにあるのか。京都に根を張る各界の先駆者たちに聞く令和時代の新しい京都地図とは─。


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