「ヤマ師」で結構!
ヤマ師 裸一貫から一代でトヨタ・松下・ 日立を超える高収益企業を作った 破格の傑物「山下太郎」のすべて 深澤 献 ダイヤモンド社 2200円(税込)
昭和20年の敗戦後、「石油」で「報国」を志したのが本書の主人公「アラビア太郎」こと、山下太郎だ。慶應普通部から大学へと進まず、札幌農学校に入る。山下のフロンティア・スピリットだ。同時にこの縁で山下が終生大事にするのが「誠実」であることだ。戦前戦中は「満州一の大家」となり、戦後は、一回の掘削で大油田を掘り当てる。結果は派手だが、背後で行う根回しと気遣いは欠かさない。本書ではそのプロセスを綿密に描いている。山下が獲得した「カフジ油田」の権益は2012年に途絶えた。「冒険心のない国は滅びる」──。現在の日本にも当てはまるのではないかと思わざるを得ない。
未来を切り拓くための闘い
ミャンマー、 優しい市民は なぜ武器を手にしたのか 西方ちひろ ホーム社(発行)、集英社(発売) 1980円(税込)
2021年2月の軍事クーデターにより、民主主義が突然奪われたミャンマー。本書は、現地で国際開発に携わっていた筆者が、自由を取り戻すために軍政と闘う市民の姿を、1年にわたって丁寧に描いた記録だ。激化する闘争だが、市民は最初から暴力で抵抗したわけではない。それは、ミャンマー人らしい温和さの表れであり、暴力がさらなる報復を招くことを歴史から学んだ悲しい知恵でもある。人々との深い交流を礎に、ミャンマー人の持つ優しさや強さまで伝えてくれる。
「法の支配」を守るため
戦争犯罪と闘う 赤根智子 文春新書 1045円(税込)
国際刑事裁判所(ICC)で裁判官を務め、2023年にロシアから指名手配を受けた赤根智子氏。彼女が語るICCの実態はわかりやすく、遠い世界の職業ではないことを実感させられる。まだICCの締約国が少ないアジア諸国において、日本は分担金拠出額が第1位である。現在受動的なスタンスである日本だが、アジアの締約国を増やすため、また、「法の支配」を守ることに定評がある日本がさらに存在感を出すため、今後、リーダーシップを発揮していくことが必要である。
