やっと秋らしい陽気になってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。今月は、女性が筆者の本、女性が主人公の本を選びました。
キュリー夫人に憧れて
翠雨の人 伊与原 新 新潮社 1980円(税込)
女性初の東京大学理学博士となった猿橋勝子の伝記的小説。科学を志しても、女性が全うすることがいかに難しいか。戦前に学生時代を過ごした猿橋の時代ならいざ知らず、先日、現代でも同じような苦労をしたという女性科学者の話を聞いて、さすが「ジェンダーギャップ指数118位の国」と暗澹たる気持ちになった。それでも、猿橋の人生は翠雨のように瑞々しい。海洋放射線汚染の測定方法が正しいことを証明するために単身サンディエゴに乗り込む様は、まさに決闘だ。
在日コリアンの苦悩と葛藤
パチンコ ミン・ジン・リー(著)、池田真紀子(訳) 文春文庫 1056円(税込)
三大コリアンタウンの一つである大阪・鶴橋は、日本による朝鮮半島統治後、職を求める朝鮮人が多く移住してきたことがルーツとなっている。本書は、4世代にわたる在日コリアンの苦悩と葛藤を描いた物語だ。主人公のソンジャは、1930年代に朝鮮半島から日本に渡り、劣悪な環境下でも子ども二人を必死で育てながら毎日を生き抜く。世代が変わるにつれて、日本や祖国への見方も変化する。一面的に善悪を語れない現実の複雑さが、リアルに表現されている。(上下巻)
