北海道福島町で新聞配達員の男性がヒグマに襲われ、死亡した。この周辺では、度々クマの目撃情報が伝えられ、近くの住宅街にある藪の中で、ハンターによってヒグマ1頭が駆除された。このほかにも、全国各地でクマの目撃や被害に関する情報が出ている。
もはや、クマの出没や被害は「異常現象」ではなくなりつつある。私たち人間がどのように付き合っていくかを考えていかなければならない時に来ている。
それは、駆除することを「かわいそう」とするといったものではない。心理的な距離と物理的な距離をしっかり考えないといけないところにきている。
現代社会において、日本人がクマとどう生きていくのか。検証した記事を紹介する。
<目次>
恐ろしかったクマ捕獲経験!人身被害減に必要なこと(2023年11月27日)
<野生動物に”押し戻される”人間>人口減少社会の「新たな戦い」(2024年11月20日)
〈クマの殺処分に「かわいそう」の抗議〉「(クマの代わりに)お前が死ね!」の暴言も…ネット社会で巻き起こる論争に抜け落ちていること(2024年12月12日)
<クマと共生する知床半島>日常を守る対策から学べること(2024/11/25)
〈クマ被害の最も多い都道府県は?〉被害ゼロの地域も、データで見る実態とその背景
恐ろしかったクマ捕獲経験!人身被害減に必要なこと
今から筆者が述べる内容は、必ずしも科学的知見に裏付けられたものではない。長年の経験と研究者やハンターなどの関係者から得た知識をもとにしたものであることをあらかじめお断りしておく。
十数年前筆者が群馬森林管理署長だったとき、ニホンジカの有害獣駆除業務に立ち会った。森林内にはシカやイノシシの通り道である獣道があるが、ここに括り罠(くくりわな)を仕掛けるのだ。
ワイヤーでこしらえた輪にシカが足を突っ込むと自動的に輪がくびれて足が抜けなくなる仕組みである。何カ所かに仕掛けて、毎日これを見回らなければならない……
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<野生動物に”押し戻される”人間>人口減少社会の「新たな戦い」
2023年度は、北海道と東北地方を中心にクマ類(ヒグマ・ツキノワグマ)が大量に出没した。全国で人の殺傷が219人(うち6人が死亡)、出没件数が2万3669件、駆除頭数がヒグマ1422頭、ツキノワグマ7675頭と、記録が残る08年度以降いずれも最多を記録し、歴史的にクマ類と人との軋轢が急激に高まった。
こうした軋轢は今回が初めてではない。明治・大正期にも、北海道に入植した和人とヒグマとの間で壮絶な戦いがあった。なかでも、1878年の札幌丘珠事件(死者3人、重傷者2人)、1915年の三毛別羆事件(死者7人、重傷者3人)、23年石狩沼田幌新事件(死者5人、重傷者3人)などの惨事は、ヒグマ三大事件として語り継がれてきた。
この開拓期のヒグマと人の戦いを第一次ヒグマ戦争とすると、第二次ヒグマ戦争は、戦後入植のためにヒグマの生息地に人が侵入した60年代当初に始まった。とりわけ62年は冷害と十勝岳爆発の降灰で山の実りが悪く、戦後最高の868頭が捕獲され、ヒグマによる人の殺傷は11人(死者3人)、家畜被害745件に及んだ……
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〈クマの殺処分に「かわいそう」の抗議〉「(クマの代わりに)お前が死ね!」の暴言も…ネット社会で巻き起こる論争に抜け落ちていること
『「友だちでした。何も言えない」クマに襲われたとみられる遺体、北大生と判明…キャンパスで沈痛な声、水産学部長「志半ばの若い命が失われたことに深い悲しみ」』──。
今年4月に筆者が上梓した拙著『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』冒頭の記述である。
本の執筆を始めたちょうど1年前のこの時期、クマによる被害人数は環境省が統計を取り始めた2008年度調査以来で過去最悪となっていた。全国統計では11月の暫定値時点で22年(76人)の2.8倍以上の212人、死亡例は22年の3倍となる6人に及んだ……
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<クマと共生する知床半島>日常を守る対策から学べること
「あっ、クマいた」
小誌記者の隣に座っていた岐阜大学3年生の井内結叶さんがぽつりとつぶやいた。
バスに乗車していた全員が我先にと身を乗り出し、井内さんの指差す方向に目を向けた。谷底に小さな沢がある。水辺のすぐ近く、緑の中に浮き立つ黒くて大きな物体は、紛れもなく、ヒグマだった。小誌取材班も瞬時にカメラを構え、クマを探して撮影したのが上の写真である。
手前に2台の車が止まっていることに後から気付いた。人との距離がそれだけ近かろうと、構うことなくクマは出てきていたのだ。
バスに乗車していたのは、イントロダクションでも紹介した「知床ネイチャーキャンパス」に参加中の学生たちだ……
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〈クマ被害の最も多い都道府県は?〉被害ゼロの地域も、データで見る実態とその背景
冬を前に、野生の熊が人里に現れ、農作物や人に対して被害を及ぼす事例が報道されている。秋田市では、11月30日にスーパーに侵入し、2日にわたって居座った。
通常、熊は11月から翌年の4月にかけて冬眠するといわれているが、今年は暖冬が続いたためか、11月に入っても熊の出没が報告されている。秋田県の「ツキノワグマ等情報マップシステム(クマダス)」によれば、11月1日から30日までの1カ月間で、54件のツキノワグマ目撃情報が登録されている。秋田県では毎日どこかで2件弱の熊の出没が起きていることになる。12月からの冬眠をまえに、熊も食料調達の追い込みをかけているためであろうか。
今回は、野生の熊の被害状況を検討するとともに、その背景にある野生の熊の生存状況、人口の少子・高齢化を踏まえての展望などを地域別に検討することとしたい……
