著者の先見性に感服
恍惚の人 有吉佐和子 新潮文庫 990円(税込)
本書が発表されたのは50年以上前。認知症が「痴呆症」と呼ばれていた時代だ。親の面倒は子どもが最期までみるべきだという社会の中で、昭子は痴呆症の義父・茂造と同居しながら献身的に介護する。徘徊や排泄介助、真夜中の叫び声、妄想・妄言─。自身も職を持ち、大学受験を控えた息子もいる家庭を支える中での介護は並大抵のことではない。夫の信利が最期まで実父の介護に積極的に関わらなかったのも印象的で、「家庭は妻に任せる」という価値観が強かったことがうかがえる。現代社会で深刻さを増す「老後問題」をいち早く取り上げた著者の先見性は、今なお鮮烈だ。
机上の空論だけの支援?
グローバル格差を 生きる人びと ─「国際協力」のディストピア 友松夕香 岩波新書 1034円(税込)
日本をはじめ、各国がアフリカに対して行う「国際協力」は、現地の人々にどのように受け取られているのだろうか。商業的な作物生産に対する補助を活発化した結果、大規模農家と零細農家間の格差が拡大したり、女性の耕作を後押しする支援が彼女たちの過重労働につながったりと、良かれと思って行われた支援が負の結果を生み出すこともある。「パートナーシップ」と言いながらも不均衡な現在から、国際関係をどのように変えていくべきなのか、考える必要がある。
迫害下の知られていない歴史
沈黙の勇者たち ユダヤ人を救った ドイツ市民の戦い 岡 典子 新潮選書 1925円(税込)
第二次世界大戦下のドイツでユダヤ人が迫害されていた時期、ユダヤ人を守る救援者のドイツ人も多く存在していた。本書では、ドイツ人が自身の甥と説明して自らの家にユダヤ人を住まわせたり、ユダヤ人の偽造証明書にドイツ人警察官が公的スタンプを押したりと、知られざる当時の様子が語られる。徐々に強まる迫害の経過から、「ユダヤ人を守る」ことの危険性の先にある〝勇者たち〟の行動にはどれほどの決意があったのか、計り知ることはできない。
