2025年12月16日(火)

WEDGE REPORT

2025年12月3日

ハマス関係者の投稿から浮かび上がる方針転換
「内部粛清は反省 今後は新たな手法も」

 実は、停戦合意後に行われた残虐な公開処刑や内部粛清に関しては、ハマス内部でも一定の「内省」の兆しが見られた。

 あるハマス関係者は、粛清映像の拡散がハマス側に不利になると認識してか、SNS上で「今後は(粛清の)方法を変える」と投稿している。10月中旬には、粛清はあくまでイスラエルの協力者・スパイ摘発のために行われているだけで、「上限のない暴力や無制限の粛清は存在しない」として、決して流血の惨事を招く目的ではないことを強調、「赦し」を求めるものは自首をせよと呼びかける。そして、最優先は「国を建てること」であって、人々の血に溺れることではなく、戦士たちはその原則を常に心に刻んでいると述べている。

 明確にこう宣言してもいる。

「ドゥグムシュ家の件を受けて、まさにその『方法』を終わらせることになるだろう。今後は別の手段での処理が行われる。我々は関与者が出頭し、暴走した者たちが頑なに抗うことのないよう願っている。さもなければ、さらなる流血を招くだけだ」

 この発言は、“ドゥグムシュ家事件”(「連載第1弾参照」)を機に、ハマスが場当たり的な私的報復や公開処刑を見直し、出頭と恩赦を組み合わせた新しい処理方針を検討し始めたことを示唆、ハマスの内部戦略の一端を明かす発言となっている。事実、公開処刑の映像が拡散され、ガザ内外から非難が湧き上がって以降、同様の残虐な粛清などが正式な手続きなしに公に行われている事例は報じられていない。

 こうした、このハマスの方針転換の背景には、残虐な処刑行為の映像がむしろイスラエル側のプロパガンダを利するものとなり、停戦崩壊と攻撃の正当化に繋がりかねないとの冷静な判断も働いたとみられる。

 仲介するアラブ諸国への配慮だけでなく、停戦協議で不利な立場になることを回避するためのハマス側の巧みな戦略が垣間見える。現時点で、国際社会からは停戦合意に反して散発的に攻撃を続けるイスラエルに対する批判の声が強いなかで(※イスラエル側はハマスが先制攻撃を仕掛けてきたための反撃と主張)、ハマスは強かに国際世論を味方につけようと探りながら事を慎重に進めているように見える。そのため、残虐な粛清動画の拡散で「やはりハマスはテロ組織だ」と非難の声が高まるきっかけを作ってしまったことに何のメリットもないことは重々承知だろう。

 また、ハマス側には処刑を公然と行うことでガザ内部での統制を強めて恐怖を与え、投降や武器の引き渡しの圧力をかける意図もあったと考えられる。実際に、一連の粛清が報じられた後、複数の主要な氏族から武器を次々に没収してきたことも確認されており、一定の成果をハマス側が得たことは明らかだ。


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