首脳会談に先立ち握手するプーチン氏(左)とモディ氏(5日、ニューデリー)
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は4日夜、2日間のインド訪問のためニューデリーに到着し、ナレンドラ・モディ首相からハグを受けた。
インドとロシアの関係をめぐっては、アメリカが10月、インドに対しロシア産石油の購入を停止するよう圧力を強めた。トランプ米政権はさらに、ウクライナでの戦争終結を目指してロシアおよびウクライナ双方との協議を重ねている。
今回のインドとロシアの首脳会談は、そうした中で行われた。両国は数十年にわたり緊密な同盟関係にあり、プーチン、モディ両氏は温かい友好関係を築いている。
なぜ両者が互いを必要としているのか、この会談で注目すべき点は何か、BBCの両国担当編集長が解説する。
特別な友好関係、通商協定、地政学
スティーヴ・ローゼンバーグ・ロシア編集長
なぜクレムリン(ロシア大統領府)にとって、インドとの関係が重要なのか?
まず数字を見てほしい。インドの人口は約15億人だ。そして、経済成長率は8%超。インドは世界で最も急成長する主要経済国なのだ。
ゆえに、インドはロシアの製品や資源、特に石油にとって非常に魅力的な市場だ。
インドは世界で3番目に大きな原油消費国で、ロシアから大量に購入している。これは常にそうだったわけではない。クレムリンによるウクライナへの全面侵攻以前、インドの石油輸入に占めるロシア産の割合はわずか2.5%だった。
対ロシア制裁が始まり、ロシアの欧州市場へのアクセスが制限されたことで、ロシア産原油の価格が下落した。インドはそれを機にロシア産原油の輸入を拡大し、割合は35%に跳ね上がった。
インドは満足していた。だが、アメリカはそうではなかった。
トランプ政権は今年8月、インド製品に25%の追加関税を発動し、インド製品に対する関税を50%にした。アメリカによる関税の中でも特に高い税率だ。ロシアから石油を購入することでインドがクレムリンの戦費を助長しているというのが、アメリカの言い分だった。これを機に、インドからのロシア産石油の注文は減少した。プーチン大統領は、ぜひともインドに石油を買い続けて欲しいと願っているはずだ。
ロシア政府にとってもうひとつ大事なのは、インドへの武器販売だ。これはソ連時代から続くもので、プーチン氏の訪問に先立つ報道によると、インドは最新鋭のロシア製戦闘機や防空システムを購入する方針だという。
加えて、労働力不足に直面するロシアは、インドを熟練労働者の貴重な供給源とも見なしている。
しかし、地政学も関係している。
クレムリンは、ウクライナ戦争をめぐって西側がロシアを孤立させようとしたが、それは失敗したという主張を、好んで繰り返す。
プーチン氏がインドを訪れてモディ首相と会う。これも、そうした文脈での主張を助ける。
プーチン氏が中国を訪れて習近平国家主席と会談したのも、同じことだ。実際に3カ月前にプーチン氏は訪中しているし、その場でモディ氏とも会った。中国、インド、ロシアの指導者が3人そろって笑顔で談笑する姿は、ウクライナでの戦争にもかかわらず、ロシアには「多極的世界」という概念を支持する強力な同盟国がいるという明確なメッセージを送った。
ロシアは中国との「無制限のパートナーシップ」をうたう。
そして同じくらい、インドとの「特別で特権的な戦略的パートナーシップ」についても強調する。
ロシアと欧州連合(EU)の関係がいかに緊迫しているかを思えば、これは実に対照的だ。
「クレムリンは、欧州を含む西側が完全に失敗したと、そう確信していると思う」。ロシア系独立メディア、ノーヴァヤ・ガゼータのコラムニスト、アンドレイ・コレスニコフ氏はこう話す。
「我々は孤立していない。なぜなら、アジアやグローバル・サウスとのつながりがあるからだ。経済的には、これが未来だ。その意味で、ロシアはソ連のように、この地域での主要なアクターとして復活した。しかし、ソ連でさえアメリカ、西ドイツ、フランスとの間に、特別なチャンネルやコネクションを持っていた。ソ連は多角的な政策を取っていた」
「しかし今の我々は、欧州から完全に孤立している。これは前例がないことだ。ロシアの哲学者たちは常に、ロシアは欧州の一部だと言い続けた。今では、我々は欧州の一部ではない。これは大きな失敗で、大きな損失だ。ロシアの政界関係者や実業家たちの一部は、欧州に戻り、中国やインドだけでなく欧州ともビジネスをしたいと夢見ているはずだと思う」
それでも今週は、ロシアとインドの友情、貿易協定、モスクワとデリー間の経済協力の強化が、しきりに話題になるはずだ。
試されるモディ氏の戦略的自律性
ヴィカス・パンディー・インド編集長
プーチン氏のデリー訪問は、モディ氏とインドの世界的野心にとって極めて重要なタイミングと重なった。
インドとロシアの関係はソ連時代にさかのぼり、地政学的な状況の変化にかかわらず続いてきた。
プーチン氏は、過去のロシア指導者と比べても、インドとの関係構築に多くの時間とエネルギーを注いできたと言える。
一方のモディ氏は、ウクライナ戦争をめぐってロシアを批判するよう西側諸国政府から強い圧力を受けながらも、対話こそが紛争解決の唯一の方法だと主張し続けた。
インドはこうして、「戦略的自律性」を発揮した。モディ氏は、ロシア政府との緊密な関係を維持すると同時に、西側との関係も保ち、それによって地政学的秩序の中で特別な位置を占めてきた。
これはうまくいっていた――トランプ氏がホワイトハウスに戻るまでは。それ以降、インドとアメリカの関係は、関税をめぐる行き詰まりを解決できないまま、ここ数カ月で過去最悪の状態に陥っている。
この文脈において、プーチン氏の訪問はmモディ氏にとってこれまで以上に重要な意味を持つ。それはインドの地政学的自律性を試すものだからだ。モディ氏はここで、いわゆる外交的な綱渡りをすることになる。
モディ氏は、国内外のインド国民に対し、自分はプーチン氏を依然として同盟者と見なしているし、かつて「真の友人」と呼んだトランプ氏からの圧力に屈していないことを示したいはずだ。
しかし、モディ氏は欧州の同盟国からも圧力を受けている。ドイツ、フランス、イギリス各国の駐インド大使が、ロシアの対ウクライナ姿勢を批判する異例の文章をインドの主要紙に共同で寄稿したばかりだ。
モディ氏はそれだけに、インドとロシアの関係強化が、アメリカと進行中の貿易協議や欧州との連携に影を落とさないようにしなくてはならない。
「戦略的なバランスをとることが、インドにとっての課題だ。インドは、アメリカ政府からの圧力とロシア政府への依存をどちらも乗り切り、自律性を守らなくてはならない」と、デリーに拠点を置くシンクタンク、グローバル貿易研究イニシアティブ(GTRI)は指摘する。
モディ氏はもうひとつ、インドとロシアの二国間貿易の潜在力を引き出すことを重視している。
専門家らはしばしば、両国の経済関係が数十年にわたり期待を下回ってきたと指摘する。
両国間の貿易高は、2020年のわずか81億ドルから、2025年3月末には687億2000万ドルへと拡大した。これは主に、インドがロシア産石油の割引価格購入を大幅に増やしたことによる。この結果、貿易収支はロシアの黒字に大きく偏っており、モディ氏はこれを是正したいと考えている。
インド企業はすでにアメリカの制裁を回避するため、ロシア産石油の購入を減らしている。それだけに、インドとロシアの両国は、貿易拡大のために他の分野を模索するだろう。
選択肢としては、防衛分野が最も選びやすい。ストックホルム国際平和研究所によると、インドによるロシアからの防衛輸入は、2010~2015年のピーク時には全体の72%、2015~2019年には55%だったが、2020~2024年には36%に減少した。
これは主に、インドが自国の防衛ポートフォリオを多様化し、国内製造を強化しようとしたのが原因だった。
しかし、貿易データを詳しく見ると、別の現実が浮かび上がる。インドの防衛プラットフォームの多くは依然としてロシアに大きく依存している。インド空軍の29個戦闘機飛行隊の多くはロシア製Su-30戦闘機を使用している。
今年5月にパキスタンとの間で限定的な武力衝突が発生した際、S-400防空システムなどロシア製プラットフォームがインド軍にとって不可欠な役割を果たすと証明された。しかし、インドが緊急に修正すべき脆弱性(ぜいじゃくせい)も、同時に明らかになった。
報道によると、インドは改良型S-500システムと第5世代戦闘機Su-57の購入を望んでいる。パキスタンが中国製の第5世代ステルス戦闘機J-35を購入したことを、インド政府は決して見過ごしていない。それだけにインドは、同等の戦闘機をできるだけ早く確保したいと考えているだろう。
しかし、ロシアはすでに制裁とウクライナ戦争の影響で重要部品の不足に直面している。S-400の一部ユニットの納入期限は2026年に延期されたという。モディ氏はプーチン氏に対し、納期の保証を求めるだろう。
モディ氏はまた、巨大な貿易不均衡を是正するため、インド製品がロシア経済に入る余地を求めるだろう。
「消費者向けで目立つ項目の額は、依然としてわずかなままだ。スマートフォン(7590万ドル)、エビ(7570万ドル)、肉類(6300万ドル)、衣料品はわずか2094万ドルだ。地政学的な変動にもかかわらず、ロシア小売市場や電子機器のバリューチェーンに、インドはなかなか浸透できていない」と、GTRIは指摘する。
モディ氏は、戦争終結後にロシアが世界経済に再統合された際をとりわけ視野に入れ、ロシア市場にインド製品の位置を確保しようとするだろう。
また、両国間の貿易が石油と防衛に依存する度合いを減らし、西側との関係を深める余地を残しながら、ロシアとの関係を強化する取引を目指すだろう。
「プーチン氏の訪問は、冷戦外交への懐古的な回帰ではない。今回の訪問はリスク、サプライチェーン、経済的遮断をめぐる交渉だ。石油と防衛を確保すれば、まずまずの成果と言えるだろうし、意欲的な成果を狙うなら、地域経済を再構築しようとするだろう」とGTRIは述べた。
(英語記事 Oil, defence and geopolitics: Why Putin is visiting Modi in Delhi)
