日本の隣に極度に権力を集中させる権威主義国家があることは、確実に脅威である。その事実をどれだけの日本人が認識しているのか。とはいえ、抑止力を高める必要はあるが、戦争の準備だと見られるような言動は控えるべきだ。過去に日本が進めた戦争の歴史的経緯もある。
さらに、中国の言論環境が日本のそれとはまったく異なることにも理解を深めるべきだ。中国では多くの人が監視や検閲を受け、家族を人質に取られるような形に追い込まれるなど、恐怖を感じながら生活している。民主主義国では考えられないような形で不当な罪を科され、投獄されている人もいる。
言論統制下では、こうした実態の多くは語られておらず、大半の日本のメディアも研究者も把握できていない。あるいは、ある程度把握していても、中国政府の圧力を恐れて、積極的には伝えていない。
日本への制裁は、経済的な相互依存関係を考えれば、中国にも大きな損失が及ぶ。それでもやらざるを得ないのは、国内には現政権の失政に対して不満が渦巻いており、中国政府は外に敵を見出すことで矛先の方向を変えようとしているのだ。
「平和ボケ」から脱却し
日本の「民主主義」を守れ
思考経路や意識形態のまったく異なる中国政府と日本国内の一般的な常識をもって向き合っても、通じるはずがない。日本政府も日本の国民も、中国政府やその関係者の発言や行動の一つひとつに憤るのではなく、大局を見て国益を捉えるべきだ。
今、日本に問われているのはまさに、左右の対立を超えた「国家の品格」である。日本そのものが米中のような法の支配、自由と民主主義などが喪失した国になってはならない。
世界の多くの国で政治家のエゴや自国優先主義が顕著になる中、国内の混乱や分断が利用されないように、鋭い分析力と表裏を使い分けた戦略によって、日本の弱みにつけ込んでくる浸透工作に断固として立ち向かわなければならない。
さらに、中国共産党政権の過酷な環境で苦しむ人に同情し、リスクがある中でも良心と勇気を持って行動しようとする人々を様々な形でサポートすることが権威主義国家の基盤を崩し、日本の民主主義を守ることにつながる。さらに、この厳しい状況の下では、権力に擦り寄り、嘘と欺瞞にまみれた生活を送っている人もいるという現実を、できるだけ冷静かつ客観的に捉え、対策を考える必要もある。
戦後、日本人が享受してきた民主主義と自由、そして平和はこれからも無条件で続くわけではない。自らが意識してリスクを管理し、方向性を定めていかなければ、知らず知らずのうちに進みたくない方向に進み、取り返しのつかないことになる。日本人は今こそ、「平和ボケ」の状態から脱却しなければならない。
