世界を変えたジャパン・メードの農薬
例えば日本農薬が開発したフルベンジアミドは、世界の殺虫剤の歴史を変えたといってもいいほどインパクトのある農薬だ。害虫の筋肉を収縮させ続けてダウンさせる薬で、チョウ目(ガの幼虫など)の害虫はやっつけるが、人間や他の動物はもちろん、ミツバチや天敵(有用昆虫)には害がなく安全性が高い。日本での農薬登録は2007年だが、そのころ主流だったネオニコチノイド系農薬がミツバチ問題で規制され始めた時期に急速に普及し、今や世界中の畑で使われる大ヒット技術となっている。
また、クミアイ化学工業が開発した除草剤ピロキサスルホンも、世界中でなくてはならない農薬の一つとなっている。この薬は、アメリカやブラジルの大農場で、従来の除草剤が効かない「スーパー雑草」が問題となる中で登場。少ない量で驚くほど効き、しかも効果が長持ちし、今やアメリカやブラジルの大農場ではこの農薬なしでは栽培ができないといわれるほどだ。
トウモロコシや大豆、小麦といった主要な穀物に使われ、世界の食料増産に大きく貢献しており、市場予測では32年に4億560万ドルを超えるとされている。世界の農薬市場でメガブランドと呼ばれる5億ドル以上には及ばないものの、4億ドル超の評価は世界中の農家がこの薬を使わざるを得ないほど重要な薬の証といえる。
日本国内では続く農薬の悪いイメージ
優れた技術力でグローバル市場でも競争力がある日本の農薬産業だが、国内では、農薬に対するイメージが悪いことで、農薬産業に従事する人は肩身の狭い思いをしている。このことは、産業の将来を担う人材確保に影響を与えており、化学や生物学を専攻する優秀な学生が就職先として農薬業界を選択肢から外す傾向があるという。また、国内での評価が低いことで既存の研究者のモチベーションも低くなりがちとなっている。
実際はその最先端技術により、世界の食料危機を救い、環境を守ることにも大きく貢献しているのに、世間一般には伝わらない。そこをなんとかしたいと、業界団体である農薬工業会(JCPA)は24年5月、名称を「クロップライフジャパン」と変更した。「農薬」という言葉の持つネガティブな響きを払拭し、クロップライフ(作物の命)を守り育む技術であることを強調したかっこうだ。
