ミャンマーで28日、3段階に分けて実施される総選挙の第1段階の投票が行われた。2021年の軍事クーデターにより主要政党が解散に追い込まれ、その指導者らが収監され、国民の半数が内戦の影響で投票できない状況にあると見られる中での総選挙は、「いかさま」だと広く批判されている。
ミャンマーの軍事政権は、クーデターによる権力掌握から約5年ぶりに、3段階からなる総選挙を開始した。クーデターは国内で反発を招き、内戦へと発展している。
観測筋は、中国の支援を受ける軍事政権が、壊滅的なこう着状態からの脱却を図る中で、自らの権力を正当化しようとしていると指摘している。
新たに制定された法律に基づき、選挙を妨害したり反対したりしたとして200人以上が起訴された。有罪となれば、死刑を含む厳罰が言い渡される可能性がある。
28日に第1段階の投票が行われる中、ミャンマーの複数地域では爆発や空爆が報告された。中部マンダレー管区では、28日未明に無人の家屋がロケット弾攻撃を受け、3人が負傷したと、同管区の首相がBBCに語った。
27日遅くには、タイ国境に近いミャワディ郡で爆発が相次いで発生し、10軒以上の家屋が損傷した。住民の1人によると、子ども1人が死亡し、3人が病院に搬送されたという。
有権者たちはBBCに対し、今回の選挙はこれまで以上に「規律があり体系的」だと感じると語った。
マンダレー管区在住のマスーザーチーさんは、「投票前は不安だったが、投票を終えた今はほっとしている。国のために最善を尽くしてきた1人として、票を投じた」と語った。
今回、初めて投票に参加したというエイピャイピョーマウンさん(22)は、「全市民の責任」だと思うので投票したと語った。
「貧しい人たちのためを願っている。今、物価が急騰しているので、一番苦しんでいる人たちのために物価を下げてくれる人を支持したい」
「すべての人に平等に与えてくれる大統領を望んでいる」
軍事政権は、「(国を)多党制民主主義体制に戻す」ことを目指していると主張し、選挙への批判を一蹴している。
ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官はこの日、首都ネピドーの厳重な警備が敷かれた投票所で票を投じた。その後、ミンアウンフライン氏はBBCに対し、選挙は自由かつ公正に行われるだろうと語った。
「私は国軍の総司令官であり、公職者だ。自分が大統領になりたいなどと言える立場ではない」とし、総選挙が3段階に分けて行われることを強調した。
ミンアウンフライン氏は今週初め、投票を拒む者は「民主主義への前進」を拒絶しているのと同じだと警告していた。
7月に制定された選挙妨害禁止法ではこれまでに、映画監督のマイク・ティー氏、俳優チョーウィントゥ氏、コメディアンのオウンダイン氏ら複数の著名人が有罪判決を受けている。
彼らは選挙を宣伝する映画を批判したとして、それぞれ7年の禁錮刑を言い渡されたと、国営メディアは報じている。
国連特別報告者のトム・アンドリュース氏は28日、「正当なものは何も生まれない」と述べ、国際社会に今回の選挙を拒否するよう呼びかけた。
「民間人を爆撃し、政治指導者を投獄し、あらゆるかたちの反対意見を犯罪化し続ける軍政による選挙は、選挙とは言えない。それは銃口を突きつけた不条理劇だ」
軍は、クーデターに反発する武装抵抗勢力や、独自の民兵組織を持つ少数民族の武装勢力と、複数の戦線で戦っている。軍は一連の大きな後退で国土の大部分で支配権を失った。しかし今年に入り、中国とロシアの支援を受けて執拗な空爆を実施したことで、領土の奪還に成功した。
内戦では数千人が殺害され、数百万人が家を追われている。経済は壊滅的打撃を受け、人道的支援の空白が生じている。ミャンマーでは3月に大地震が発生したほか、国際的な資金援助の削減にも直面しており、人々が置かれた状況はさらに悪化している。
加えて、国土の広範囲は依然として反政府勢力の支配下にある。そのため、各地で選挙実施の態勢を整えるうえで大きな課題が生じている。
投票は1カ月間で3回に分けて実施される。330郡区のうち265郡区で予定されているが、ほかの郡区については、投票を実施するには状況があまりに不安定だとされている。
残り2回の投票は来年1月11日と25日に予定されており、結果は同月末ごろに発表される見込み。
国内の最大半数の地域では投票が行われないとみられる。投票が予定されている郡区でも、すべての選挙区で実施されるわけではなく、投票率の予測は困難だ。
軍が支援する連邦団結発展党(USDP)を含む6政党が全国で候補者を擁立し、さらに51の政党と無所属候補が州または地域レベルで選挙に臨む。
2015年と2020年の総選挙で圧勝したアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)を含む、約40政党からの立候補は禁止されている。アウンサンスーチー氏とNLD幹部の多くは、政治的動機によるものだと広く批判される罪で投獄され、ほかの指導者らは亡命している。
選挙監視団体「スプリング・スプラウツ」の広報担当ティンチョーエー氏は地元メディア「ミャンマー・ナウ」に対し、「投票を段階的に分けることで、当局は第1段階の結果が思わしくない場合に戦術を調整できる」と語った。
西部チン州の住民ラルウクタン氏(80)は、市民は「選挙を望んでいない」と述べた。
「軍はこの国をどう統治すればいいか分かっていない。彼らは軍の高位の指導者の利益のためにしか働かない」と、同氏はBBCに語った。
「アウンサンスーチー氏の政党が政権を握っていたころ、私たちはわずかながら民主主義を経験した。でも今は泣いて、涙を流すばかりだ」
イギリスや欧州議会を含む西側諸国は、今回の総選挙をいかさまだとして認めていない。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、いかなる選挙もその前に政治的対話が必要だと呼びかけている。
(英語記事 Polls close on first day of Myanmar's widely criticised 'sham' election)
