2026年1月19日(月)

トランプ・パワー

2026年1月19日

米国の国家安全保障戦略を
日本はどう捉えるべきか

 こうしたトランプ政権の対中姿勢は、同政権が打ち出した国家安全保障戦略(NSS)を通じて、より明確に理解することができる。NSSでは、西半球の防衛が最重要課題として位置付けられ、欧州や中東への関与は「選択的」なものとされている。すなわち、米国第一主義をより先鋭化させ、経済的コストや国内世論を強く意識し、過度な海外関与を抑制する傾向が明確に打ち出されている。これには、ヴァンス副大統領の思想が大きく反映されている。

 このNSSは、中国との関与を失敗と結論づけ、中国との戦略的競争に最大限の資源を投入する「優先主義」を前面に打ち出したトランプ政権1期目の戦略とは一線を画している。トランプ2.0の国家安全保障戦略では、中国に対する抑止の必要性には言及されているものの、中国を「最大の競争相手」とする表現は避けられている。台湾問題についても、半導体供給網の安定や地域の平和といった経済・地政学的観点からの言及はあるが、台湾関係法への言及を避けるなど、軍事介入を前提とした踏み込んだ記述は抑制的である。むしろ、米中間の互恵的な経済関係の必要性が強調されている。

 このNSSは米中を公式にG2と位置付けてはいないが、大統領が米中G2という世界観を持っていることは間違いなく、それは勢力圏の相互尊重という発想につながる危険性を帯びている。年始にトランプ政権は中国との関係を深めるマドゥロ氏を拘束するためにベネズエラに対して軍事攻撃を行い、西半球を勢力圏とみなしていることを実際に示した。これを受けて中国が西半球に政治・経済的影響力を及ぼすことを控え、対米貿易黒字の削減に取り組めば、米国が台湾などアジアの問題から手を引くというシナリオにも備えておく必要がある。

 一方、NSSがトランプ政権の世界観を示したとはいえ、トランプ氏自身は戦略や理念に基づいて対外政策上の決定を行う人物ではない。むしろ、状況に応じて本能の赴くままに場当たり的な対応を行う傾向がみられる。トランプ氏はビジネスの慣行を外交に持ち込み、経済的な利権を主に追求するが、そのためのディールを手段ではなく目的と位置付ける側面もある。

 自らの強みが予測不可能であることを自覚し、それは同盟国に不安を与えるが、潜在敵国に対しても計算を複雑にする効果がある。「平和の大統領」として、紛争の解決や抑止に前向きであることも間違いない。NSSだけでトランプ氏の行動を理解することはできない。

 このような米国の戦略転換の中で、日本がどのように日米同盟を維持・強化していくかは極めて重要な課題である。高市政権は戦略三文書の見直しを前倒しする方針であるが、最大の焦点は米国との関係をどのように位置付けるかになるだろう。米国の拡大抑止にどこまで依存できるかわからなくなる中、日本国内でもこれまで通り日米同盟強化路線を選択することが正しいのかという迷いが生じている。独自の核武装を求める声も徐々に高まっている。

 トランプ政権は同盟国に対して一律対国内総生産(GDP)比3.5%の防衛費を求めている。この基準の達成に前向きな同盟国を「パートナー国」、消極的な国を「依存国」と分け、後者に対しては防衛義務の行使を放棄する可能性を示唆している。しかし、本来防衛費の規模は各国が主権の範囲で決めるべきものであり、同盟の価値を単に依存度で評価することは健全なやり方ではない。このため、同盟の目的の再確認が必要である。

 今回のNSSで米国は中国に対する軍事的優位が不可能との前提の下、米中軍事バランスの維持による紛争の回避を重視する姿勢を示したが、とりわけ2つの列島線の防衛とシーレーンの安定への同盟国からの貢献が今後期待されるはずである。これはこれまでの日米同盟の目的と一致しており、日本は米国と同盟の目的を再確認した上で、防衛費の額よりも、どのような能力を提供できるのかを具体的に示し、トランプ流の実利主義と噛み合う形で同盟の価値を訴えていく必要がある。


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