生活規律としての統制と「お上」への依存
生活の現場においても、1942年の食糧管理法に代表される統制体制は、国民の国家に対する意識を根底から変容させた。主食であるコメを政府が一元的に管理し、配給通帳によって公平に分配する仕組みは、国民に「生存そのものを国家が担保する」という強烈な体験を刻み込んだ。
自由よりも安全を、競争よりも平等を国家に求めるメンタリティは、戦時下の規律を通じた「国民生活の管理」という経験によって確固たるものとなった。国家統制は国民に「国家が生活を保障する」という安心感を与えたが、同時に「国家に依存する」心理を強化した。
現代日本人の国家への依存意識は、この戦時体制の経験に根ざしているのである。こうした依存意識は「国家による庇護」を当然視する土壌を育み、現代日本において政府の全能性に期待する「大きな政府」観の源流となっている。
革新官僚の遺産
国家主導経済の推進を担った革新官僚の思想は、戦後日本の経済政策に多大な影響を与えた。戦後長らく、通商産業省(後の経済産業省)が主導した産業政策や、経済企画庁による計画経済的手法は、戦時期の統制経済の延長線上にあった。
つまり、戦時体制で培われた「国家が経済を設計する」という発想は、戦後も持続し、経済復興期から高度経済成長を支える仕組みとして再利用され、国民や企業の間に国家の役割を期待する文化が形成されたのである。
こうした歴史的経緯が生んだ国家社会主義的なDNAは、現代日本の危機対応において鮮明に再起動した。2020年の新型コロナウイルス危機下で政府が実施した、布マスクの全戸配布、全国民への一律給付金、事業者への助成金、そして医療提供体制確保のための補助金といった一連の「総合調整」は、まさに戦時統制の倫理-「有事には国家が全員に最低限を行き渡らせ、価格や雇用の崩壊を防ぐべきである」という思想-の現代版にほかならない。
法的強制力よりも、行政による「お願い(自粛要請)」と「協力金」による補填という形式が選ばれた点も、官民の合意形成を重んじる日本型調整国家の伝統を象徴している。
