カットされる軍事以外の予算
「ハード・パワー」偏重の対外政策は、今年2月に始まった対イラン戦争でもいかんなく発揮されたが、莫大な戦費と強力な兵器を投入した割には、当初意図した「体制転換」や「核の脅威根絶」などの戦争目的達成には遠く及ばなかった。 ナイ教授の予言が的中した形となった。
しかしその結果として、非軍事関連予算は10~20%近くカットを余儀なくされており、中でも、国立美術館、国立公園など公共施設では、維持管理費、人件費の削減によるサービス低下が早くも露呈し始めている。
長期的に見て、特に懸念されるのが、公的科学、医療研究機関に対する思想的締め付け、予算カットによる国としての発展・成長への影響だ。
例えば、がんや感染症などの病気の予防、治療法の研究・発見に大きく貢献してきた「国立衛生研究所」(NIH)の場合、1887年創設以来、医療分野で多くの著名な研究者を輩出し、巨大医薬品メーカー誕生の基礎ともなってきた。 日本を含む世界中の医学研究者たちもNIHで研究に取り組み、ノーベル賞受賞につながった例も枚挙にいとまがない。
ところが、トランプ政権は、2027会計年度予算教書の中で、NIH予算について「研究者たちがリベラルな思想にかぶれている」などといった根拠のない理由で、前年比50億ドルもの削減方針を打ち出した。
ライフサイエンス、地球規模の健康課題に関する研究なども廃止に追い込まれたほか、他の医療・保健関連研究機関もリストラ対象とされた。
こうした措置に対し、米科学振興協会(AAAS)は直ちに抗議し、スディップ・パリック理事長名で「米国のイノベーション、繁栄、福祉の原動力である米国の科学の勢いを維持するため、予算の大幅削減を撤回すべきだ」との声明を出している。
留学生の数も減少
連邦政府による思想面のしめつけは、助成金削減措置を通じ、米東部のハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などのアイビー・リーグ、西海岸のカリフォルニア大学バークレー校、スタンフォード大学など、幾多のノーベル賞受賞者を生み出してきた名門大学にも及んでいる。世界各国からのこうした大学への留学生数も、トランプ政権発足以来、着実に減少傾向にある。
軍事力に依拠したハード・パワーとは対照的に、「知」「探求心」に支えられたソフト・パワーが減退していくとすれば、米国の将来は、トランプ大統領が描く「黄金時代」からかえって遠ざかっていくことになる。
