専門家から見た
日本の強みと課題
──日本として勝機があるとすれば何があるのか?
杉山 米・エヌビディアなどとGPUの性能競争で日本が先頭に立つのは難しいかもしれない。だが、勝負はそこだけではない。製造業、ロボティクス、防衛、医療と、日本は世界でも質の高いデータを持っている。AI時代の競争は計算性能だけでなく、データの主権と信頼性の競争になる。そこに勝機がある。日本は、医療向けや工場向けに特化したAIのモデルをつくっていくことが重要になる。データそのものはあるので、そこをどう生かすかだ。ロボティクスとの組み合わせにもチャンスは残っているはずだ。
日本のロボティクスは工場のオートメーションに特化してきた歴史がある。ただ、大型アームロボットが主流で、人間と一緒の空間で働ける「コラボラティブロボット」という概念がなかった。欧米では、人間とロボットが同じエリアで働ける協働ロボットが進んでいるが、日本は「ここは人間、ここはロボット」と区切られていて融合できていない。
医療ロボットも同様だ。例えば遠隔手術では、医師が患者に付き添う体制を基本としており、技術よりも、制度が普及の足かせになりやすい。
また、セキュリティーの分野も重要になっている。企業間や国家間でデータをどう秘密保持するかが課題だ。処理の最中もデータをハードウェアで隔離・保護する「コンフィデンシャルコンピューティング」が、データ主権の基盤として重要性を増している。各国政府も、国家のデータを安全に扱う基盤づくりを急いでいる。米国は2025年、国家の科学データ、AI、スーパーコンピューターを統合する「Genesis Mission(ジェネシス・ミッション)」を立ち上げ、機密データを扱う安全な計算基盤の整備を進めている。ヨーロッパにも同様の枠組みがある。
また、防衛・軍事用途もある。米・パランティアの技術などがそうであるようにデュアルユース(民軍両用)が今のトレンドだ。
整理すれば、日本の勝ち筋は三つある。製造業に根ざした産業AI、ロボティクス、そしてデータ主権とセキュリティーだ。AIの性能競争は続くが、今後はむしろ、誰がデータを保有し、誰がその真正性を保証するのかが問われるようになる。
ラピダスの
成功条件とは?
──6月にも政府は、ラピダスへの1500億円の追加出資(合計2.9兆円)を決めた。
杉山 ソフトバンク、ソニー、そして技術パートナーである米IBMなど、民間からの出資が増えている。富士通も、AIに特化した1.4ナノの「NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)」をラピダスに製造委託するなど、仕事は入り始めている。
ラピダスの成功条件は、2ナノの製造のみならず、顧客を獲得して、少量生産から段階的に規模を広げ、顧客基盤を固めていくことだ。2027年の量産開始、そしてその先の本格的な量産体制に向けて、着実な前進を期待したい。
政府は半導体で10兆円の基金をつくり、AI・半導体に向けては多くの資金を投入できる体制になっている。それらを決して死に金にせず、〝生き金〟にしていく必要がある。時間をかけた積み上げが重要だ。
──AIを使いこなすのに必要なこととは?
杉山 AIを使いこなすためには、知識が必要だ。提示された情報が正しいかどうかを選別できなければ意味がない。AIを使わない人は確実に仕事が減っていく時代になったが、「使いこなせない人」も同様である。AIの答えをそのまま使うのではなく、自分の知識でプラスアルファをどう加えるかがカギだ。
アメリカでは、エンジニアのジュニア採用が減っているが、農業やインフラなど、別の産業でAIを活用した仕事が生まれている。雇用制度の硬直性を克服し、日本でもそういった循環が起きてほしい。AI時代の競争は、もはや半導体の性能だけの競争ではない。
データ、クラウド、セキュリティー、そしてAI主権(AIソブリンティー)を含めた、国家レベルのインフラ競争になりつつある。日本にもまだ勝機はあるが、その時間は決して長くない。

