このため、政府が現在進める「攻めの予防医療」は、かつてのような医療費削減を第一の目的とはしていない。根本的な狙いは、深刻化する労働力不足を見据え、社会保障の「担い手」となる健康で働く人を増やすことで、国民の健康寿命を延ばして経済社会の活力を維持することにシフトしている。
迫り来る社会保障改革の波
「働く健康な人を増やす」というポジティブな政策を進める一方で、急増する現役世代の負担を和らげるため、社会保障制度そのものの「痛みを伴う改革」も待ったなしの状況だ。
医療保険制度では、高齢者の受診行動や所得の状況を踏まえた「窓口負担の見直し」が検討されており、27年度の予算編成過程で具体的な制度設計について結論を得る予定だ。介護保険制度でも、利用者が2割負担となる「一定以上所得」の判断基準の見直しについて、26年度中に結論を得る方向で検討が進められている。さらに、金融所得や資産を医療・介護保険における給付と負担にどのように反映させるかについても検討が進められている。
これらはいずれも、これまでの「年齢」による区分から、現役・高齢者を問わず「支える能力(応能負担)」に応じた負担へと、制度のあり方を抜本的に変える試みである。
「セルフケア」促すOTC薬の負担見直し
こうした改革の中で、私たちの生活に最も身近な変化となるのが「OTC類似薬(市販薬とほぼ同じ成分の処方薬)」の保険給付の見直しだ。
「OTC」とは、ドラッグストアや薬局などで、処方箋なしで購入できる医薬品を指し、「Over The Counter(カウンター越し)」の略称である。日本では従来、「大衆薬」や「市販薬」と呼ばれていたが、07年ごろから国際的な表現に合わせて「OTC医薬品」という呼称が行政や業界を中心に広く用いられるようになった。
これまでは、風邪薬やアレルギー性鼻炎薬、胃腸薬、湿布など、市販薬と成分や効能が類似する薬であっても、医師の処方を受ければ公的医療保険が適用され、比較的少ない自己負担で入手することができた。しかし、27年度以降に向け、こうしたOTC類似薬については保険給付の対象を見直す方向で検討が進められている。
この見直しには、軽症の場合は医療機関への受診に頼るのではなく、自ら市販薬を選んで対処する「セルフメディケーション」を推進するとともに、公的医療保険財政への負担を抑え、限られた医療資源をより必要性の高い医療へ重点的に配分する狙いがある。
