2026年7月21日(火)

日本の医療〝変革〟最前線

2026年7月21日

「風邪は万病のもと」が促す軽症受診

 予防医療の目的が労働力確保や財政健全化へとシフトしたとしても、このまま医療費増大が続けば、医療制度そのものが破綻してしまうことに変わりはない。健康な働く人を増やしつつ医療制度を維持するためには、日本の医療制度の抜本的な改革が必要だ。それには国民皆保険のあり方を見直さざるを得ない。

 日本が誇る国民皆保険は誰でも安価に高度な医療を受けられる素晴らしい制度だが、一方で休養やOTC医薬品で治るはずの軽症患者の受診により、医師が日々の対応に忙殺されるという弊害も生んでいる。「軽い風邪でも医療機関を受診すべき」という従来の意識を改め、受診前にAI問診や看護師による電話相談を義務化・活用するなどの「受診前トリアージ」を導入し、軽症の風邪程度での無駄な受診を確実に減らす仕組みが必要だ。

「出来高払い」が招く予防医療の「バラマキ」化

 さらに深刻なのは、現行の診療報酬制度が検査や治療といった「医療行為の数」に応じて報酬が支払われる「出来高払い」を基本としている点だ。医療費削減ではなく「健康な人を増やす」という新たな目的のもとであっても、このシステムのまま「攻めの予防医療」を強力に推進すれば、病気の早期発見のための「検査」や「保健指導」を行えば行うほど医療機関の収入が増える構造になってしまう。

 これでは、健康増進という大義名分のもとで過剰な検査や早期介入が繰り返され、結果として単に医療機関を潤すだけの「バラマキ」へと変質し、医療費の高騰にさらなる拍車をかけることになる。「マッサージに行くより安いから」と軽度の腰痛でクリニックを受診するような現状は、出来高払い制度が結果として医療機関と患者の双方に「必要性の低い受診・診療」を容認させている構造の表れである。

求められる評価制度への移行とセルフケアの意識

 この歪んだ構造を打破するためには、従来の「出来高払い」を脱却し、患者を健康に保つことで医療機関が適切に評価される報酬体系への移行が必要だろう。また、国や自治体に対しても、セルフケアの徹底や予防に努めた国民への負担軽減など、健康行動そのものに直接的なインセンティブを付与する柔軟な社会設計が求められる。

 予防医療の主眼が「医療費抑制」から「働く人の確保」へと転換しつつある今、私たち自身が医療への向き合い方を変えていかなければならない。一人ひとりがセルフケアの重要性を理解し、無駄な受診を抑える行動をとると同時に、次世代の未来を守りながら国民皆保険制度を維持するために、予防、受診のあり方、そして診療報酬という三位一体のシステム改革に向けた国民的な対話を深めていくことが求められている。

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