現在大半のメーカーでは、自宅からのリモートワークができるのは、管理部門や庶務部門に限られているが、フィジカルAIが普及すれば、工場労働者たちも自宅から働くことが可能になるかもしれない。これはワークライフバランスの改善にもつながる。
ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会( BITKOM)がドイツ企業に対して行ったアンケート結果でも、「AI導入の利点は何ですか」という設問に対して、「労働時間を短くできる」と答えた回答者の比率は59%と最も高かった。つまりAI導入によってワークライフバランスの改善を期待している労働者が多いのだ。
ドイツでフィジカルAIの導入が最も早いのは、大手メーカーになるだろう。ドイツではまず大手企業を中心として、アドバンスト・エッセンシャルワーカーが出現する可能性がある。
大半のエッセンシャルワーカーは移民
これに対しドイツでは、工場労働者以外のエッセンシャルワーカー、たとえばバスなどの公共交通機関の運転手、ゴミ回収を行う人々、建設労働者、高齢者介護施設での介護士、病院での看護師などの業務についてフィジカルAIを投入するという議論は進んでいない。これらはデジタル化そのものが難しい部門だ。バスや地下鉄、市電、タクシーの自動運転も研究の域を出ておらず、米国や中国に水を開けられている。
ドイツなど欧州諸国で、こうしたエッセンシャルワーカーの不足を補っているのは、外国からの移民たちである。たとえば24年3月に連邦統計局が公表したデータによると、清掃業に従事する市民の59.7%、飲食店勤務者の45.6%、ビルの建設作業員の40.5%、公共交通機関の運転手・運転士の39.6%が移民系市民(外国人、ドイツに帰化した市民またはその子ども)だ。欧州の現状を見る限り、これらのエッセンシャルワーカーの労働条件がフィジカルAIによって短期的に改善される可能性は低いだろう。
つまり将来は、デジタル化の恩恵に浴するエッセンシャルワーカーと、そうでないエッセンシャルワーカーに二分化していく可能性もある。

