2026年8月21日(金)

スポーツの新潮流

2026年8月21日

前例なき構想を実現させた
3人のキーマン

 この「前例のない」新球場構想が動き出したのが15年のことだ。そこには、3人のキーマンがいた。

 1人目は、ファイターズ事業統括本部長としてボールパーク構想を発案し、現在はファイターズ スポーツ&エンターテイメント代表取締役社長を務める前沢賢さんだ。

 球団には、北海道移転時から『スポーツコミュニティーを実現する』という思いがあった。スタジアムが人を引き寄せ、活発な活動を起こし、地域にコミュニティーを作るといった考え方だ。

 本拠地に北海道という地を選び、地域の人たちに愛されるという土壌はできてきたが、本拠地としていた札幌ドームは第三セクターであり、札幌市が所有し、管理・運営していたため、コミュニティーの形成まで仕掛けることは難しかった。

 現状を打破するため、自前の球場を持ちたいという思いを強くした。「スポーツは、チケット購入、来場、観戦と、数多くのステップを踏んでいるにもかかわらず、それらが試合時間の2~3時間だけで終わってしまうのはもったいない。長く滞在してもらえるサービスを提供できれば、その分、消費もしてもらえると思いました」と前沢さんは話す。

 構想を実現するためには、広大な土地が必要である。そこで手を上げたのが、札幌市に隣接する北広島市で企画財政部長をしていた現・副市長の川村裕樹さんである。JR千歳線北広島駅から北西に2キロ・メートルほどの場所に「総合運動公園建設予定地」として残されていた40ヘクタールほどの土地があった。

 北広島市の人口は約6万人。毎試合3万人もの来場者を迎える環境を作れるのか。それでも、「ベッドタウンからエンタメ施設で人を呼び込み、関係人口が増えるまちに生まれ変わるチャンスであった。職員や市民の理解があれば、実現できると思った」と地域を巻き込んだ。

 「できるわけがない」「やめた方がいい」といった言葉も多い中、ともに協力してくれたのが不動産デベロッパーであるエスコン代表取締役社長の伊藤貴俊さんだった。

 「前沢さんたちは全て自分の言葉で話し、絶対にやり遂げるという強い意思を感じました。何もないところから球場を作り、周辺の開発を担うというのは当社にとって大きな決断でしたが、このメンバーとなら成し遂げられると感じた」と話す。

 駅もなければ、スーパーやコンビニもない。スタジアムがあるだけでは利便性は低く、デベロッパーとしてのセオリーからは外れるもの。それでも、「プロ野球チームの本拠地の隣にあるマンションというだけで住みたい人はたくさんいるはず」と感じた。ファイターズが北海道で愛されていることも後押しした。

 年間460万人もの来場者を誇るFビレッジで現在進められているのが、「観光地からまちへ」の進化だ。

 球場近くにJR千歳線の新駅が28年に開業、ペデストリアンデッキで球場とつながる予定だ。すでに新駅近くには地上35階建て約500戸のタワーマンションが着工。北海道医療大学の移転計画も公表されており、近くに学生向けのマンションも建設する。地上11階建ての商業・オフィスビルの建設も進む。球場周辺で運営されている認定こども園やクリニックモール、農業学習施設などとあわせて、商業と居住の両面からの発展が図られている。

 スタジアムでの熱気は地域経済を活性化させ、新たなコミュニティーやまちづくりにもつながり得る。ただ、それは〝勢い〟だけでは実現しない。球団と行政、地域住民が一体となって動く必要がある。

 同市が26年1~2月に、市内事業者を対象にした経済動向調査では、Fビレッジによって売上が増加した事業者は7.6%にとどまる。その理由について、同市商工業振興課長の佐々木貴啓さんは「当初は、来場者に様々な取り組みを行いましたが、なかなか思い通りにいきませんでした。目的を持ってFビレッジを訪れている人の行動を変容させるのは簡単ではなかった」と振り返る。

 失敗にもめげず、試行錯誤を繰り返しながら、様々な仕掛けを講じてきた。例えば、広島東洋カープとの交流戦に合わせ、北広島駅前で広島県の食を提供する「広島フェア」を実施した。もみじ饅頭には長蛇の列ができ、広島風お好み焼きは完売した。北広島商工会ではFビレッジのアプリを活用した市内周遊デジタルスタンプラリーも開催するなど、ファイターズと地元事業者の相乗効果を狙い、成果を上げ始めている。

 エスコンフィールド近くでアウトドアのセレクトショップと飲食店を運営するキャンパーズアンドアングラーズマネジャーの池本洋介さんは「民間同士だとそれぞれビジネスを考えてしまうこともあるが、市が調整役を担ってくれることでスムーズに動ける。ファイターズが方向性を示し、民間がアイデアを出していければ、行動や経済効果はまち全体に広げられる」と語る。


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