香川で見てきたもの、経験してきたことを、自分の手で本の形に残していく。その積み重ねによって、文学フリマにも香川独自の地域性というものが出来上がりつつある。
海を越えて、表現が連鎖していく
文学フリマ香川の開催によって、表現することが少しだけ身近になったのではないか。西原さんは、参加者の変化についてこう語る。
「本を作るだけでなく、それを販売するところまでがセットになって、自分の表現の手段として生まれている。そんな変化を感じます」
そして、こうした動きは香川の島々へも広がりつつある。
小豆島にある書店は、初回の文学フリマ香川には出店せず、来場者として参加したという。しかし翌年には、自ら本をつくって出店。さらにその経験を活かして、小豆島でZINE制作のワークショップを開催するようになった。今年は、そのワークショップから生まれた別のサークルも文学フリマ香川に出店したという。
「以前は、香川でも『ZINEとは何か』『自分で本をつくるとはどういうことか』という声がほとんどだったと思います。それが今では、小豆島で『ZINEをつくってみよう』という動きが生まれている。文学フリマを開催する意義を感じた瞬間でした」
思えば東京でも、文学フリマに続く形で、日記祭やZINEフェスなどの新しい即売会イベントが生まれている。同じように、香川では書店や島の垣根を越えながら、新しい文化運動として連鎖し始めているのかもしれない。
「大きな都市の下で、小さなムーブメントが起きていることはぼんやりと知っていました。でも、自分の住む香川で、それも当事者として経験できるというのは本当に楽しいし、幸せなことだと思います」
西原さんがイベントを続ける原動力は、人が喜ぶ姿に立ち会うことにあるという。ひとつ印象に残っている出来事として、あるエピソードを教えてくれた。
初めて香川で文学フリマが開催された日、会場の端の方で涙を流している女性の来場者がいた。スタッフとして「どうされたんですか?」と声をかけると、会場で森見登美彦さんに出会えたこと、大好きな作家さんが香川に来てくれたことが嬉しくて涙が止まらないのだと知った。
「その姿を見た瞬間、鳥肌が立ちました。『そういうことならば!』と、思う存分に泣いていただきましたね(笑)」
香川では、著者が書店に訪れたり、トークイベントが開かれたりする機会は都市部ほど多くない。だからこそ、自分が主催したイベントで、誰かが心から喜ぶ姿を目の前で見られたことは特別な経験だった。
「ZINEとは何か」さえ、まだ広く知られていなかった香川。そこに今、自分の見てきたもの、考えてきたことを書き留め、それを誰かへ手渡すという行為が、ひとつの表現方法として根付きつつある。そして、その経験がまた別の人の創作欲を掻き立て、島や書店をつなぐ地域の新たな活動へと連鎖している。
香川県高松市で開催される、本と人をむすぶ大規模ブックイベント
日 時:2026年10月4日(日) 11時〜16時
場 所:高松中央商店街 南部3町ドーム+4町パティオ 周辺
*入場無料
*雨天決行(荒天中止)
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