震災の証言や新たな知見を
次世代への教訓につなげる
寺田寅彦は『津浪と人間』で、災害を防ぐ「唯一の方法は人間がもう少し過去の記録を忘れないように努力するより外はない」と記した。これからの防災のあり方を考える上で、重要な手がかりとなるのが「歴史」である。
阪神・淡路大震災の経験を記録し、次世代へつなぐ拠点が神戸市にある「人と防災未来センター(人防)」だ。2002年4月に開館し、震災の一次資料を収集・保存してきた。資料は現在、20万点を超える。事業部運営課の松村嘉奈子さんはこう説明する。
「震災関係資料の展示に加え、実験やVRを通じて、防災・減災に関する実践的な知識を学ぶことができます。年間に約50万人のお客様に来場いただいていますが、災害があった翌週は来場者が多くなりますね。資料の収集に協力してくれた被災者の方々は、『同じ目に遭ってほしくない』という思いで災害の怖さを伝えてくれています。ぜひその思いを感じていただけたらうれしいです」
人防の役割は震災の記憶を「残す」だけではない。収集した記録を研究し、そこで得られた知見を人材育成へとつなげている。前出の阪本さんも東日本大震災などで研究員として災害対応支援に携わった一人だ。
「資料をただ展示するだけにとどまらず、研究を通して新しい事実を発掘し、その内容を人材育成に活用していく。こうした研究と人材育成の循環を生み出していることに、人防の大きな価値があると思います」
福井さん夫妻に話を戻そう。取材中、こう話したことが忘れられない。
「あの震災のことは、『逃げてしまった』という後ろめたさをずっと感じてきました。自分たちの中で震災と〝折り合い〟をつけ、当時の体験を語るまでには時間が必要でした」
30年以上が過ぎた今もなお、語られぬまま眠っている「歴史」は多いのかもしれない。だからこそ、貴重な証言や新たに掘り起こされた知見を一過性のものにするのではなく、教訓として次世代へ紡ぎ続けていく──。そのための不断の営みが、社会全体に求められている。
