大規模な腐敗撲滅運動を展開し、強権ぶりを発揮している習近平だが、そこには危うい面もある、との記事を、エコノミスト誌8月2-8日号が掲載しています。
すなわち、腐敗撲滅運動が始まった時から、問題は、習の追及が指導部のどこまで及ぶかだったが、周永康が腐敗容疑で取調べを受けているという29日の報道で、答えは出た。
かつて周は中国で最も恐れられた実力者の一人だった。2年前まで党政治局常務委員であり、治安機構のトップとして、軍のそれを上回る予算を仕切っていた。しかし、これで、最高指導部経験者は不可侵、という中国権力政治の不文律は破られ、習の権力について疑う余地はなくなった。習は鄧小平以来、最強の指導者だろう。
警察組織や石油ガス産業に君臨していた、周の苦境は、2012年、薄熙来・重慶市党書記の粛清を契機に明らかになった。習と対立していた薄は習の主席就任に反対したと言われる。その簿と近い関係にあった周は、薄の失脚に異議を唱え、中国最高指導部内の対立が顕わになった。
ここ数カ月は、ペトロチャイナの長だった蒋洁敏など、周の庇護者たちが次々と収賄容疑で検挙され、29日には周の息子も逮捕された。しかし、周の親族の資産は数十億ドルと言われるが、周が他の長老よりも腐敗しているかどうかは疑わしい。周の罪は、薄と同様、あまりにも権力をかき集めて、集団指導体制を脅かしたことにあるようだ。
ただ、習と、その右腕として反腐敗運動を取り仕切ってきた王岐山が、汚職撲滅に真剣であるのは間違いなく、昨年は政府・党関係者18万人、今年初めの5カ月で約63000人が処罰されたと言われる。その中には、大臣、地方政府指導者、公営企業幹部が30名以上おり、自殺した者もいる。習と王は、腐敗は、自分たちが進めようとしている経済改革の足を引っ張るだけでなく、共産党支配の命取りにもなりかねないと思っているようだ。おそらくその見方は正しい。党の腐敗への人々の反感は強く、腐敗した「トラ」の退治は習の人気につながる。
また、周の失脚には、ライバルを蹴落とし、自らの権力基盤を固める、粛清の面もある。もっとも、楽天家は、習はその権力を経済や社会改革に使うと期待しており、党も、10月に党中央委員会第4回全体会議を開き、法の支配について協議すると発表した。
しかし、習の戦略には危うい面もある。前例のない、執拗で厳しい大規模な反腐敗運動のために、統治機構全体が萎縮、政府・党の役人は、上からの明確な指示がない限り、政策やプロジェクトの実行を嫌がるようになった。中国では賄賂は契約の獲得や役人の昇進と不可分なので、次の標的になることを恐れているのだ。そのため、贅沢な饗応や新規プロジェクトへの支出が急減しただけでなく、習や王が推進に腐心している改革自体の実行も危うくなっている。