ーー本書では、「読む」「書く」「話す」それぞれの力を鍛える重要性を強調されています。
伊藤:これは自分の経験からです。実は私は情報収集や情報整理についての「オタク」で、その手の本はほぼ全部読んでおり、これまで実際にいろいろ試してきました。試してみた結果、結局自分には役に立たないとわかったものも多いのですが、最後にわかったことは、書くことが自分の理解や頭の整理につながるということです。書くことは非常にエネルギーがいる作業で、その手前に話すことなどがある。経験の中で、そういうサイクルがいつのまにか自分の中にできました。特に新聞の原稿などを引き受けると締め切りがありますから、プレッシャーになりますし。
ーー人とのインタラクション(相互作用)を通じて思考を発展させる効果も指摘されています。
伊藤:学者の間ではインタラクションは多いです。セミナーは基本的な活動ですし、また非常に緊張する場でもあります。いい効果が出た場合には、共同論文の執筆ということにも発展します。前に触れましたが、私は30代の後半からは流通業界に関心をもって、現場のいろいろな経営者にインタビューしたものを本にしたりしました。人の話を聞くことを非常に大切にしています。
ーーそれはゼミの学生さんとの議論なども含まれるのですか?
伊藤:彼らの話を聞きながら、自分でも考えます。学生の発言から重要な発見をすることもあるし、学生に話すために自分の頭で考えたことが、後になって役立つこともあります。まさに相互作用で、キーワードみたいなものがふっと浮かんでくることもあります。少し前、電力システム改革のことを学生に話した時、「要点はタテからヨコ」という言葉が浮かんで説明をしました。発電と送電の分離や、電力会社が従来の営業エリア外に電力を販売する動きなど、これまでの垂直的な統合から横への展開や競争という趣旨ですが、そうしたキーワードはわかりやすいと思って、後に新聞の解説原稿を書く時などに活用しました。
ーー本書全体を貫いている一つの思想は、「自分でやりたいことを常に確認して自分で考える力を持とう」という読者へのメッセージではないかと思います。
伊藤:そういうことですね。もう一つ言うと、自分の強みと弱みを知るということです。私の弱みは持続性がない点なのですが、逆に瞬間的にしっかり考えて、それをつなげてゆくということを心がけています。それぞれその人にあった考えでやってゆくということが大切なのだと思います。
伊藤元重(いとう・もとしげ)
1951年静岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、米ロチェスター大学大学院経済研究科博士課程修了。93年より現職。専門は国際経済学、経済政策全般。新聞寄稿や著書多数。
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